4月23日、シスコシステムズは同社のSDNへの取り組みであるCisco ONE(Open Network Environment)に関する最新情報のアップデートを行なった。昨年6月に発表されたCisco ONEの基本的な取り組みに変更はないが、新たに業界各社の参加によるオープンソースプロジェクトである“Daylight Project”への取り組みが明らかになったことで、より方針が鮮明になったと言える。
「マニュアルから自動化の実現へ」が根本的発想
まず概要説明を行なった、米シスコシステムズのデータセンターグループ シニアバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャのデビッド・イェン氏は、「データセンターにはさらなる拡張性の実現が求められ、そのためにネットワークのシンプル化と効率化が不可欠となっている」とし、SDNの実現がユーザーのニーズに応えるためにも必要とされているとの認識を示した。
続いて、同社のエンジニアリング部門CTO兼チーフアーキテクトのデビッド・ワード氏が、Cisco ONEの最新状況に付いての説明を行なった。同氏はまず、Cisco ONEが同社の複数の事業領域にまたがる包括的な取り組みであることを指摘した上で、根本的な発想が「マニュアルオペレーションから自動化/オーケストレーションの実現へ」という変化を実現することだとした。
Cisco ONEでは、同社がこれまでネットワーク機器に実装してきた豊富な機能群へのアクセス手段を提供するためのAPIセットである“OnePK”の提供、コントローラとエージェントの実装、オーバーレイネットワークの実現の3つの取り組みが中核となっているが、今回のアップデートでもっとも大きな変化があったのがコントローラーの実装部分だ。
従来は、ともすればOpenFlowコントローラーの独自実装を目指すといった単純な話にも見えていた部分だが、実際には主要なネットワーク機器ベンダーや仮想化ソフトウェアベンダーが参集する形でLinux Foudationの元で発足したオープンソースプロジェクトである“Daylight Project”によって“Open Daylightコントローラー”の実装に取り組むことが明らかになった。
Open DaylightコントローラーはJavaで記述されるマルチプラットフォームのコントローラーで、サウスバウンドAPIにはOpenFlowのほか、同社のOnePKもプラグインモジュールの形で組み込むことができる。また、OpenFlowを推進するONF(Open Networking Foundation)では標準化を当面見送るとされているノースバウンドAPIの整備にも取り組むことになっている。Daylight Projectは標準化団体ではないため、標準を策定することが目的ではないが、業界各社で広く利用されることになればデファクトスタンダードとしての地位を確立することになることが期待される。
SDNは単なるソフトウェアのアップデート
同社ではまた、ネットワークの仮想化というやや漠然とした用語に対して、「ネットワーク機能の仮想化」(Network Function Virtualization)という考え方を打ち出している。何かが大きく変わるというものではないが、OnePKなど、既存の豊富な機能セットをSDN環境でもそのまま使えるようにする、という同社の基本的な考え方からすればごく自然な発想だと思われる。
ワード氏は同社のSDNへの取り組みについて「単なるソフトウェアのアップデートと位置づけられ、根本的な変化ではない」としているのだが、これも根本にある考え方は共通だろう。同社のこれまでの取り組みがSDNによって根本的な変化を迫られていると言うことではなく、既存の機能群に対してSDN環境で使いやすいように新たなインターフェイスを加えるだけ、という考え方に基づくものだと考えられる。
OpenFlowによってSDNというアイデアを広めたONFは“ユーザー主導の組織”を掲げ、意思決定を主導するボードメンバーにはネットワーク機器ベンダーからの参加はない。いわば、ネットワーク機器ベンダーと対峙する形でユーザーの意向に沿ったSDNの実現を目指した組織だと言える。
SDNのメリットとしてONFでは、コントロールプレーンとデータプレーンを分離することでデータプレーンを制御するネットワーク機器のシンプル化/コモディティ化が実現し、低価格化が進むという見通しを語っていたのも、いわばネットワーク機器ベンダーに対するユーザーからの要望だと考えられる。一方、Cisco ONEやDaylight Projectでは、ネットワークをソフトウェアによって集中制御することで柔軟性や迅速性を実現するというメリットは同様に追求するものの、機器のコモディティ化という発想は見られない。ONFがネットワーク機器ベンダー抜きで成立したことに対するネットワーク機器ベンダー側からの回答がDaylight Projectだと見ることも可能だろう。
最後に、シスコシステムズの執行役員 システムズ・エンジニアリングの吉野 正則氏が国内での取り組みについて紹介を行なった。まず、国内では7組織でonePKのEFT(Early Field Trial、いわゆるクローズドβテストに相当する活動と理解できる)が行なわれ、現在ではEFTフェーズ終了を受けてCA(Controlled Availability)版での検証/検討フェーズに移行しているという。実ユーザーの協力を得て急速なブラッシュアップを図ることができるのも既存ネットワークベンダーの強みであり、Cisco ONEの実運用環境への展開は年内にも一定規模で開始されるものと見られる。

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