YM2151のinとout
―― YM2151以外にもFM音源のチップってあったと思うんですが、このチップにしたのはなぜですか?
佐野 一番有名なのがYM2151だったんですよ。マーブルマッドネス※が最初のFM音源が入ったゲームと言われてますけど。DX7が出たインパクトがあったじゃないですか。あれと同じことがアーケードゲームの世界でも起きたんですね。
※ マーブルマッドネス : 1984年に登場したアタリのアーケードゲーム。FM音源にはYM2151を採用。
ヨナオ 玉が転がるゲームなんですけど。
佐野 そうやって言うとすごい陳腐なゲームのようですけど。
細江 ピーターパックラット※とどっちが先かなあ。音がすごいんですよ。現代音楽っぽい。
※ ピーターパックラット : 1985年に登場した、やはりアタリのアーケードゲーム。
佐野 それ、どんなゲームなんですか?
細江 ねずみのアクション。
佐野 って、また説明するとつまんないゲームに聞こえるという。細江さんがFM音源に初めて触ったのはいつなんですか?
細江 FM音源自体はDX7があったから。
佐野 YM2151はヤマハさんがFM音源をチップ単体でも流通させようという流れからですよね、確か。
ヨナオ ありましたよね、YM2151と同じスペックで鍵盤の付いたシンセが。
佐野 DX21とDX100ですよね。DX100はドラムンベースのベースマシンとして活躍していますからね。ホントにきれいなサイン波が出るのに、中古がとっても値ごろだったので。
※ DX21 : 1985年発売。オペレーター数4、8音ポリフォニックの61鍵シンセサイザー。定価13万3000円。公式サイト
※ DX100 : 1985年発売。ミニ鍵盤49keyモデル。乾電池駆動に対応。定価6万9800円。公式サイト
―― いや、あれも今は結構な高値が付いてますよ。ヨナオさんと阿保さんが音を作りはじめたのはFM始まりなんですよね?
ヨナオ だからアナログと比べてどうの、と言うことは考えませんでした。シャープのパソコンでX1turboというパソコンがあって、それにFM音源をつないで、プリセット音を見ながら勉強していったんです。
※ X1turbo : 1984年10月発売の8ビット機。当時の本体価格は27万8000円。CPUはZ80A(4MHz)、RAMは 64KB、表示は640×400ドット8色。漢字V-RAMが搭載されたパソコンで、オプションでFM音源ボードが設定されていた。
―― それってまさにこのチップ(YM2151)じゃないですか?
阿保 そうですね。私はX1G※のmodel 10というのにFM音源を入れて使っていました。その前はPSG※だったんですが、FM音源の理論は全然わからなくて、適当な数値を入れながら、トライ・アンド・エラーですね。
※ X1G : 1986年7月発売。X1turboシリーズと下位互換性を持っていた。
※ PSG : Programmable Sound Generator。矩形波とノイズを組み合わせて音を作るゲームマシンやパソコンに搭載された音源。FM音源やPCM音源に押されて廃れたが、今ではチップチューンに欠かせないサウンドに。
―― 細江さんはアナログシンセも経験されていたと思うんですが、FM音源の優位性って何だと思われましたか?
細江 アナログは倍音を削る作りなわけですよね。FMは倍音を増やしていく考え方なので、そこが確実に違いますね。
阿保 減算と加算の違いということですよね。
細江 ただチップ的に高いので。
佐野 だからゲーム業界もすぐ抜きにかかったんですよ。
―― 抜くって?
佐野 基板から抜いちゃう、つまり使わないということです。その後にFM音源とPCM音源が併存する時代があったんですが、PCM音源のチップの方がはるかに安いんですね。だからどんどん抜いていったんですよ。
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