
人体で基板を触れば、仕組みは理解できずとも音が変わるのである
Make Fair Tokyoのような自作系のイベントに行くと、音の出る電子工作の作品が多い。理由は簡単。敷居が低いから。何か音さえ出れば、それは楽器として成立するし、正しく機能させるために難しい理論を学ばなくても、音さえよければ、結果オーライで許される。
ただ、そうした電子工作のための有用な手引書はほとんどなかった。今年初めにオライリー・ジャパンから訳本の出た、ニコラス・コリンズの「Handmade Electronic Music」は、その決定版といえる。この本の一貫した姿勢は「いい音が出て、煙が出ないなら、理解できなくても気にしない」である。
だから逆に、市販されているような電子楽器のクローンを作るための理論本として買うと裏切られる。この本で語られているのは、スピーカーに電池をつないで鳴らすような電子部品の積極的誤用であったり、ラジオのような電子機器を発振器として鳴らすサーキットベンディングの手法だったり、ジャガイモに電極をつないで電力を得ることだったりする。
身の回りにある電子機器はどういう音がするのか、それを使って何ができるのかという、料理のレシピ本のような内容。そして今までアウトサイダーと見られてきた、電子音楽の歴史の一部について書かれた本としても興味深い。
この本を訳した船田巧さんに、今までの電子工作本と何が違うのか、いま電子工作の世界で何が熱いのかを訊いてみた。ちなみに船田さんと筆者は、自作機材を使って音楽活動をしていた時期が少しだけあり、やり取りに若干なれなれしい部分があるのはご容赦願いたい。
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Handmade Electronic Music ―手作り電子回路から生まれる音と音楽 (Make: PROJECTS)Nicolas Collins(著)オライリージャパン

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