大河原克行が斬る「日本のIT業界」 第30回
NTTドコモの通信障害がもたらしたケータイ業界の新たな課題とは?
これまでの常識が通じないAndroid時代のインフラ開発
2012年01月30日 09時00分更新
2012年1月25日に発生した、NTTドコモのパケット交換機障害。そして、2011年8月から3回に渡って発生したspモードの通信障害などの一連の障害は、スマートフォンが急拡大するなかで、通信事業者が抱える課題を露呈するものになったといえよう。
NTTドコモの発表によると、2011年4~12月までのスマートフォンの出荷台数は553万台。当初は600万台としていた2011年度の年間出荷計画は、850万台に上方修正され、「すでに1月27日時点で620万台に達している」(NTTドコモの山田隆持社長)という。
通期での携帯電話販売台数の2100万台のうち、約40%を占めると予想している。
言い方を変えれば今回の障害は、予想以上の勢いで広がるスマートフォンに対して、これまでの設備投資の考え方では通用しなくなっていることを示したともいえる。
山田社長は「顧客満足度はドコモにとって重要な指標。ネットワークインフラの安定運用させることは経営の根幹であり、今回のネットワーク障害ではお客様に大変なご迷惑をおかけした。なんとしてでも、全力をあげ、信頼を取り戻したい」と再発防止に努めることを宣言する。
相次ぐドコモの通信障害
まず簡単に、その経緯を辿ってみたい。今回の通信障害はいくつかに分類できる。
ひとつは、2011年8月から3回に渡って発生したspモードの通信障害である。
spモードとは、NTTドコモのスマートフォンユーザー向けサービスで、月額350円を支払えば、iモードで提供していた「@docomo.ne.jp」のメールアドレスのほか、コンテンツの決済サービス、ウイルスチェックや公衆無線LANサービスなどが利用できる。ドコモのスマートフォンユーザーのほぼすべてが利用しているといっていい。
2011年8月16日の障害は、ネットワーク認証サーバーの障害により、spモードへの新規接続がしづらくなるという事象が発生。約110万人の利用者に影響があったというものだ。
また、12月20日の障害では、ユーザー管理サーバーの不具合を背景に、spモードの一部のユーザーのメールアドレスに、別のユーザーのメールアドレスが置き換えられる事象が発生。約2万人に影響した。ここでは、通信の秘密や個人情報の漏洩という重大な問題を引き起こしている。
年が変わって、1月1日の障害では、メール情報サーバーが故障し、spモードメールが送受信しづらくなり、さらに不達のメッセージを届けられなかった事象が発生。メールを送受信しづらくなったユーザーが約260万人。不達のメッセージを届けられなかったユーザーが約20万人いたという。
同社では、このほかにも2011年6月にサービス制御装置の輻輳に伴う音声、パケットが発着信しづらいという事象が発生している。
これらはいずれも同社のspモードシステムである「MAPS」(Multi Access Platform System)における障害である。
一方、2012年1月25日に発生したパケット交換機障害では、スマートフォンの急増に対応するために、現行の7台のパケット交換機を、3台の新型パケット交換機への切り替え作業を行ったものの、スマートフォンから発信される制御信号を処理しきれず輻輳が発生し、首都圏において、FOMAの音声およびパケット通信サービスが利用しにくい状況になった。スマートフォンの位置情報の登録が行いにくくなったことで、「圏外」の表示が続いたユーザーも多かったという。ここでは最大で252万人が影響したと発表している。
そのほかにも、1月27日には東北の一部地域において、FOMAおよびXiの音声着信、パケット発着信がしにくい状況が発生したほか、通信障害としては発表していないものの、1月25日深夜には工事に伴い、都内の一部で通信エラーが発生するという問題が発生している。1月25日深夜の問題では、影響したユーザーは少なく、通信障害のレベルではないと判断しているという。

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