3年間で倍の出荷規模を目指す富士通
そして、今回のプロモーションには、富士通のもうひとつの思惑がある。
富士通は、2013年度を目標に、年間1000万台の出荷規模を目指す方針を打ち出している。2009年度実績が563万台、2010年度が542万台であることに比較すると、今後3年で倍増させるという意欲的な計画でもある。
そして、この計画実行の上で、成長戦略の柱とするのは、海外事業の拡大である。
2010年度実績で、50対50だった国内、海外の出荷比率を、1000万台達成時には海外比率を70%にまで拡大する計画だ。そして海外戦略の柱としているのは、MADE IN JAPANのPCではなく、海外のODMを活用した低価格製品領域におけるボリューム戦略となる。
例えば、ノートPCを例にあげれば、富士通が得意とする欧州や、今後の需要拡大を見込むAPAC(アジア太平洋地域)では、ODMを活用した製品比率は実に60%にまで引き上げることになる。ノートPC全体でみても、ODM製品の比率は40%に達する計算だ。これだけ、一気にODMの比率を増やし、低価格路線の製品比率を増やすというのが事業拡大のひとつの柱なのだ。
海外生産を増やしながらも国内ブランドを強化する狙いとは
それにも関わらず、それと一線を画す「出雲モデル」「伊達モデル」のプロモーションを打ち出したのはなぜなのか。
富士通はPC事業において、あくまでも付加価値戦略を主軸とし、それを全社イメージとして展開する姿勢は変えない考えだ。
つまり、ODM比率を増やすからこそ、それと明確な差別化を打ち出すことができる出雲モデル、伊達モデルをブランド化し、富士通のPCのイメージを、高品質というところに置こうという考えだ。
出雲モデル、伊達モデルという高品質ブランドを持つメーカーのPCだから、低価格路線の製品でも安心して利用できるというイメージの醸成にもつなげることができる。
だからこそ、出雲モデル、伊達モデルのプロモーションを展開することにしたのだ。
そしてもうひとつ付け加えると、日本においては、ODM製品の比率はノートPCの場合では10%に留めること、そして、グローバルにODM比率を高めたとしても、島根富士通でのノートPCの生産量は減らすことにはつながらない。
日本のユーザーに対しては、引き続き、国内生産モデルを提供し、さらに国内生産の絶対量は増加傾向にするというわけだ。
現在、島根富士通では年間200万台のノートPCを生産しているが、1000万台のPCが出荷される段階では、島根富士通のノートPCの生産量は、少なくとも1.5倍規模には拡大することになろう。
島根富士通の宇佐美隆一社長は、「トヨタ生産方式のへの取り組みによって、工場内には空きスペースができている。年間400万台の生産体制にまでは拡大できる」と、すでに増産に向けた準備が整っていることを明かす。

この連載の記事
- 第35回 首位を狙わないキヤノンのミラーレス戦略
- 第34回 NEC PCとレノボの合弁はなぜ成功したのか?
- 第33回 シャープ復活の狼煙、その切り札となるIGZO技術とは?
- 第33回 任天堂はゲーム人口拡大の主役に返り咲けるのか?
- 第32回 日本IBMの突然の社長交代にみる真の狙いとは?
- 第31回 脱ガラパゴス? 国内TOPのシャープが目指す世界戦略
- 第30回 これまでの常識が通じないAndroid時代のインフラ開発
- 第29回 ビッグデータは我々になにをもたらすのか?
- 第28回 Macの修理を支える、老舗保守ベンダーが持つ“2つの強み”
- 第27回 スマホ時代に真価を発揮する、多層基板技術ALIVHとは?
- この連載の一覧へ