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最新エンタープライズストレージの実力を探る 第17回

データの容れ物はどのように進化したのか?

ハードディスクと外付けディスクアレイ装置

2011年07月11日 09時00分更新

文● 渡邉利和

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エンタープライズITで主流のストレージは、ディスクアレイと呼ばれる複数のHDD等を組み合わせて高速、大容量、高信頼といった要件を満たすように設計されたシステムだ。ここでは、こうしたエンタープライズストレージの基礎技術を整理しておこう。

ディスクアレイ製品とは

 現在のストレージの中核となっている記録メディアはHDD(ハードディスクドライブ)だ。データ転送速度や記憶容量、コストなど、さまざまな面で進化を続けており、総合的に見れば現時点においてももっとも使いやすい記録メディアだといえる。最近ではSSDに注目が集まり、「HDDはもう古い」といった印象もあるようだが、総合的に見ればまだHDDを完全に置き換える段階には至っておらず、当面はHDDが主役であり続けるだろう。

ストレージの中核となっているHDD(シーゲイト製)

 HDDは、磁性材料を塗布した円盤(プラッタ)を高速に回転させ、磁気ヘッドで任意の位置のデータを読み出す、という構造になっている。HDDの外寸はほぼ規格化されており、その外寸に合わせてプラッタの直径もほぼ決定されるので、容量を増やすためにプラッタを大きくするという手は基本的には使えない。もっぱら記録密度を向上させ、同じサイズのプラッタにより多くのデータを記録できるようにしていく、というのがHDD単体で見た場合の進化の方向性となる。もちろん、HDDの外寸の範囲内でプラッタを複数装備するという手法もあるが、際限なく枚数を増やせるわけではないので、最終的には高密度化による容量増を実現せざるを得ない点に変わりはない。

 高密度化による容量増には相応の研究開発期間が必要だが、市場におけるデータ容量の需要急増は爆発的で、HDDの記録密度向上を待ってはくれない。PCの場合は、HDD単体がそのままストレージとして見えており、特にWindows等のOSではHDD単体が1つのドライブとして見えており、データ保存のための単位として明確に意識される状態だ。とはいえ、サーバーではより大容量のデータを扱う必要もあり、HDDの物理容量を単位として分割された記憶領域を管理する手間が煩雑になりすぎるという事情もあって、複数のHDDを論理的につなぎ合わせ、大容量のストレージを実現する技術が古くから利用されている。

 必要に応じて多数のHDDを組み込むことから、サーバーの筐体内部にHDDを搭載するよりも、外部の独立した筐体とする方が都合がよいこともあって、この分野のストレージはほぼ例外なくサーバーとは独立した筐体を持つ「外付けストレージ」という形態を採る。

EMCのミッドレンジ外付けストレージ「VNX」

 外付け型のストレージに対して、サーバーに内蔵されたストレージをDAS(Direct Attached Storage)と呼ぶことがある。本来的な意味からは、筐体内蔵か外付けか、という視点ではなく、そのサーバーのみからアクセスされる占有型の接続か、複数のサーバーから共有される形の接続か、という点に注目した言葉だ。しかし、エンタープライズ向けで外付け型の独立した筐体をもつストレージはほぼ例外なく共有型の接続をサポートしているので、現実問題としては“DAS=サーバー内蔵のHDD”と考えて問題はない。サーバーにRAIDコントローラーが実装されていれば、内蔵型HDDでもディスクアレイ化して利用することは可能なのだが、この場合はサーバーごとにそれぞれ個別のストレージを持つことの無駄/容量効率の低さというDAS固有の問題はそのまま残る。

さまざまなHDDの種類

 ストレージ内部に搭載され、実際のデータ記録を担う記録メディアには、さまざまな種類がある。前述のように、現在の主流はHDDだが、密度向上に歩調を合わせて外寸の縮小も行なわれている。現在市場で使われているのはほぼ3.5インチだが、最近ではエンタープライズストレージでも2.5インチHDDを使う例が出てきている。外寸が小さくなると、内蔵できるプラッタの直径も小さくなり、記録容量の面では不利になるが、大きなプラッタを高速に回転させるためのモーターのトルクや消費電力は馬鹿にならない。また、目的のデータに素早くアクセスするために要する時間もプラッタが小さい方が有利になる面がある。現在は省電力/高エネルギー効率が求められるようになっているため、元々はノートPC用に開発された2.5インチHDDがエンタープライズストレージでも使われるようになってきている状況だ。

2.5インチHDDを搭載するIBMの「Storwize V700」

 また、HDDに変わる新しい記録メディアとして最近実用段階に入ったのがSSD(半導体ディスク)だ。これは、磁気ディスクではなくフラッシュメモリを使うもので、電源をオフにしてもデータが消えず、比較的低コストで製造できるフラッシュメモリが進化したことで実現したものだ。ただし、比較的低コストというのは半導体メモリデバイスとして見た場合の話で、HDDとの比較ではバイト単価でまだ数倍~数十倍程度の差があり、ストレージ用としてはまだまだ高価なデバイスという位置づけになる。SSDでは物理的な可動部を持たないため、省電力、静音でアクセス速度面でも有利だということで、特に高速性を求められる用途から普及が進んでいるところだ。

インターフェイスの種類

 ストレージ関連のインターフェイスとしては、ストレージデバイスとサーバー/コンピューターを接続するための「ホストインターフェイス」と、ストレージデバイス内部でHDD等を接続するための「ディスクインターフェイス」に大きく分けられる。PCや、サーバ内蔵HDDの場合は、ディスクインターフェイスとホストインターフェイスが事実上同一のものになるが、外付け型のディスクアレイでは、この両者はそれぞれ独立している。

ホストインターフェイスとディスクインターフェイス

 ホストインターフェイスとしては、もっとも古い歴史があるのはSCSI(パラレルSCSI)だ。ただし、市場ではパラレルSCSI接続のデバイスはほぼ皆無になりつつある状況だ。新世代のSAS(Serial Attached SCSI)は、ディスクインターフェイスとして広く使われているが、ホストインターフェイスとしてはあまり一般的ではない。エンタープライズストレージのホストインターフェイスとして広く利用されているのはファイバチャネル(FC)で、一般的にはSAN(Storage Area Network)の物理メディアとして利用されている。なお、SANに関しては、最近ではEthernetを利用したiSCSI(IP-SAN)との区別を明確化する意味からか、FC-SANとしてファイバチャネルファブリックを利用していることを強調する呼び方も広まりつつあるようだ。

 FC-SANは、物理的にはファイバチャネル接続だが、上位のアクセスプロトコルはSCSIを使っているので、ホストインターフェイスとしてのSCSIの後継規格と位置づけることもできるかもしれない。なお、ハイエンドのHDDでは、ディスクインターフェイスとしてファイバチャネル接続(FC)を採用している例もある。

 このほか、ホストインターフェイスとして使われることはないが、容量の割に安価なPC用HDDのディスクインターフェイスとしては、SATAもよく使われるようになってきている。元々はパラレル接続だったATAをシリアル化した規格(Serial ATAの略)である。PCの内蔵HDDとしては一般的だが、エンタープライズストレージで利用されるようになったのは比較的最近のことだ。ただし、ホストインターフェイスとして利用されることはなく、ディスクインターフェイス専用となっている。

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