ブラックボックスに改良を阻まれ
性能を上げられず
もちろんインテルも、手をこまねいてわけではない。だが厄介だったのは、RDRAM周りがブラックボックスだったことだ。Direct RDRAMを利用する場合、Rambusから供与される「RAC」(Rambus ASIC Cell)と呼ばれる回路を経由する(図4)。
このRACとその他の回路の間は、Direct RDRAMが800MHz駆動の場合は128bit/100MHzで接続される仕組みだ。こうした回路を提供する場合、一般的には「ハードマクロ」と「ソフトマクロ」という、2種類の提供方法がある。電子工作キットで例えてみよう。ソフトマクロは回路図そのものが提供されるので、自分でパーツを組み立てる必要はある。だが技術さえあれば、これをアレンジしたりすることは容易だ。
対するハードマクロは、「半完成品キット」とでも言うべきものだ。電源やその他の配線だけすればすぐに使える一方で、あとから手を入れるのは結構難しい。RACはハードマクロとしてRambusから提供されたので、インテルが独自に手を加えようとしても非常に困難であった。
のちにRambusの担当者に聞いたところ、Direct RDRAMの帯域を活用するためには、「メモリーコントローラーやCPUの側も、パイプラインアクセスを考慮しないとうまくいかない」という話だった。当初からパイプラインアクセスを考慮したPentium 4ならともかく、それを考慮していないPentium IIIでは性能が出にくいというわけだ。しかし、そんなことを今さら言われてもと、インテルも困ったであろう。結局性能は最後まで改善されずじまいだった。
Direct RDRAMは去った
しかしメーカーの技術力向上につながる
最後にDirect RDRAMの致命傷となったのは、発売後に欠陥が見つかったことだ。これは原理的な欠陥というよりも実装の問題であるが※1、高負荷が掛かるとノースブリッジ(メモリーコントローラーハブ、MCH)にリセットが掛かってしまうという問題だった。この問題により、Intel 820を搭載したマザーボードが全量リコール、といった騒ぎに発展した。
※1 MCHの実装問題なのか、RAC側の実装問題なのかは、いまだに明らかにされていない。
そしてIntel 820のリコール騒ぎで、あおりを喰ったのが「MTH」(Memory Translator Hub)である。MTHは図5のように、RIMMの代わりに装着することでPC100 SDRAMを使えるようにするものである。RIMM基板の高さを大きく伸ばして、そこにMTHとPC100 DIMMスロット2つを取り付けたお化けカードも試作され、一部秋葉原などでも売られていたようだ(関連リンク)。
しかしIntel 820のリコールにより、動作が安定しないという理由でこれもIntel 820やIntel 850での利用がサポートされないことになってしまった。もともとMTHを使うと性能が出ないことは明白なので、「RIMMが安価に導入できるようになるまで、つなぎとしてSDRAMを使えれば」という発想だったようだ。ところがそのMTHがサポートされなくなると、PCにとってDirect RDRAMは、「高価で遅い」だけのとりえのないメモリーになってしまった。この先の話は連載29回で触れているので、ここでは割愛する。
こうしてDirect RDRAMは、急速にPC向けメモリーからフェードアウトすることになった。ただし、「Direct RDRAMはPC業界にとって意味がなかったか?」と言うとそうでもない。Direct RDRAMに対応するために、各マザーボードベンダーが自社の技術力を急速に引き上げることにつながったからだ。
それは設計だけでなく、マザーボードの生産現場にとっても言える。結果として当初は6層基板が必須だったIntel 850搭載マザーボードも、のちに4層基板で製造できるようになった。また、ここで800MHzという高速な信号に関するノウハウを蓄えた結果、AGPや400MHzを超えるFSBの信号も、難なく扱えるようになった。Direct RDRAMによってもたらされた技術レベルの底上げは、無視できないものがあったと言える。
Rambusはこの後、まったく異なる接続形式となるXDR DRAMに移行していく。それについてはまた別の機会に触れよう。
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