相談を傍観できるのがネットの強み
―― ネットで精神をケアする効果ですが、リアルと比べてどんな違いがありますか? 臨床心理士として、相談者の方と接していらっしゃる実感としてはどうでしょう。
末木 ネットで相談みたいなものはしていないので正確な比較はできませんが、その後も心の支えになるような良い効果をもたらすことは、普通にあると思いますよ。
自分のサイトとは離れますが、コミュニティの場合は単純に相談したりされたりするだけじゃなく、その様子を誰でも見られるというメリットがあります。これは一対一で対応する臨床の現場では起こり得ないことなんですよね。相談のやりとりを眺めながら、当事者と自分を照らし合わせて自殺衝動を抑えたり、「自分ってそんな変な悩みを持ってるわけじゃないんだ」と感じることができる。これはかなりいい点だと思います。実際、思い悩んでいても周囲に助けを求められない人が、相談者に共感しながら心を平穏にできたりしますし。
まあ、ネットだと万が一の際に物理的に止められないですし、相談者に対して、集団で自殺を煽るような対応をしたりと駄目な部分もいっぱいありますけどね。それでも、ひとつの相談のやりとりが複数の人の心を引き留めるみたいに、プラスの実行力を持つこともあると思うんですよ。
―― でも、やっぱりマイナスイメージの解消は難しいですよね。100人を救っても1人を死に追いやってしまったコミュニティと、誰も救わず誰も死ななかったコミュニティがあったら、前者が悪とみなされる風潮があると思います。自殺サイトはどれだけ人を救っても、1人の死者で世間から悪のレッテルを貼られる危険が常にある。このジレンマの解決策みたいなものはありますか?
末木 まったくおっしゃる通りで、そこはすごく感じますし、簡単には解決できないと思います。そもそも、自殺というのは因果関係の特定が非常に難しく、研究ベースでも非常に複雑な現象と言われています。だから、「救った」「死なせた」という判定自体が難しいんですよね。それでも「死なせた」はかなり具体的な事象なので、近いところにレッテルを貼りやすくて、曖昧な存在の「救った」では払拭できなくなるという……。
ただ、自殺サイトの運営というのは、良いことをやっているのか、悪いことをやっているのか聞かれると、なかなか判断ができない。しかも、読んだ人、参加した人が死ななかったとしても、提示された解決策が最良か否かという問題も残ったりします。それを全体的に検証していくのは非常に難しい。だから、現在も自分のサイトについて「悪くはないんじゃないか」というところまでしか言えないんですよね。
―― もうひとつ感じるのは、インターネットはどんな人でも参加できるけど、自殺を思い留まらせるのは専門家でも難儀ということです。個人的には、周囲の対応(煽り)は仕方ないのかなとも思うんです。
末木 難しいですよね、実際。客観的にどう対応すればいいか知っていたとしても、ああいう場だったら「ネタでしょ?」みたいに思ったり書き込んだりするのは、別に普通なんだろうなとは思いますから。じゃあ規制すればいいと言っていた人もいましたが、何をどうやって規制すれば効果的なのか見えないんですよね。
―― 「ネットと自殺」という問題は簡単には解決できなそうですね……。ただ、そういう混沌とした状況でも、末木さんのような専門家が一般向けに解説するサイトは信頼できる拠り所になり得るかなと思います。問題はそういうサイトを見分けるのが難しいこと。何かコツはありませんか?
末木 うーん……将来的には教育的な観点と技術的な観点から利用者側が選びやすくなる可能性はありますが、今は信頼できる情報を発信している人が、自負を持って検索上位になるよう努力するしかない気がします。
教育的な観点というのは、ネットリテラシーの向上ですね。教育によって、情報を信じるべきか否かの目を育てるという話で。技術的な観点は、検索エンジンの精度を高めるということです。まあ、昔のYahoo!のようなディレクトリ検索を併用するような仕組みができてもいいのかなと思いますね。
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