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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第84回

東大の心理学者、ネット版「いのちの電話」作りたい

2010年11月23日 12時00分更新

文● 古田雄介

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「本気度」を示したかった

―― サイトを始めたきっかけを教えてください。

末木 修士論文がきっかけですね。かねてから自殺系の掲示板やチャットなどの、いわゆる自殺サイトのコミュニケーションに関心があったんです。何か事件があるたびに報じられる「負の連鎖」みたいな悪い部分だけでなく、励まし合ったりして不安を和らげるような良い側面のほうに注目してもいいんじゃないかと。

 それで修士2年になった4月頃、まずはサイトの管理人さんにアンケートして、実際のコミュニティの現場の情報を調べようと考えました。ですが、協力をお願いするメールを送っても、基本的には反応がないか、「無理です」と言われるという感じで、あまり相手にはされなかったんです。

 何がダメだったんだろう。やはり、こちらがどんなつもりでやっているのか見えないのが悪かったんじゃないか。そう思って、「本気度」を見せると言いますか、自分なりに自殺予防に少しでも貢献できるようなサイトを作ろうと考えたんです。

末木氏は、相談者の心理的問題やそれに伴う行動の改善、予防などを担う臨床心理士の資格を持つ。インタビューには東大の本郷キャンパスで応じてもらった

―― では、これまで持っていた知識やノウハウを一気にアウトプットしたという感じですかね。

末木 やる前から頭にあった完成形みたいなものは、2ヵ月くらいで書き上げたと思います。コンセプトとしては3つの柱があって、自殺を考えている人に気持ちを落ち着けてもらって、絶望しなくていいような思考法を提示したいというのがひとつ。身近な人に「死にたい」と言われた人に向けた対応方法を示すのがひとつ。もうひとつが、自殺サイトというものをニュートラルな立場から伝えたいというところですね。

―― 本人と周囲、そして自殺サイトに関して深く知らない人に向けて作ったわけですね。

末木 そういう考えでしたね。先ほど言ったように、世間一般で自殺サイトがあまりに悪く言われすぎじゃないかと。研究のテーマにする前から、そういうサイトをずっと読んできたんですが、その印象と巷での言われようがずいぶんかけ離れていて、誤解や偏見みたいなものを感じていましたから。

―― 自殺と、自殺サイト。関心を持つようになったのはいつ頃ですか?

末木 原点はやはり自殺のほうで、高校時代に身近でそういうことが起きました。それより前から日本で年間3万人以上が自殺しているという情報は知っていましたが、まさか自分のすぐ近くでそんなことが起きるとは思いもせず、かなりの衝撃がありましたね。そこから現在の職や研究を考えるようになり、自殺サイトにも注目するようになったという流れです。

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