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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第84回

東大の心理学者、ネット版「いのちの電話」作りたい

2010年11月23日 12時00分更新

文● 古田雄介

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徐々に作りあげてきた更新のスタンス

―― 開始から2ヵ月後に自殺サイト管理人さんへのインタビュー記事を掲載するなど、発端になった目的はすごく早く達成されていますね。それとは別にサイト自体の、読者からの反響はどうでしたか?

末木 基本的にほとんどなく、1日200~300アクセスという、こぢんまりした感じです。ただ、まれにメールや他のサイトで意見していただいた際は、サイトの方針に反映させていただくこともありました。

 始めて1ヵ月くらい経った頃、この界隈では有名なブログでサイトが採り上げられ、「情報発信するのはいいけど、効果や悪影響の有無を検証しないといけないでしょう」と指摘をいただいたんです。

 まったく予期しないことでしたけど、おっしゃるとおりだと思い、2008年8月くらいから読者に対して、本サイトと自殺系コミュニティに関するアンケートをお願いするようになりました。コミュニティのほうは現在は終了していますが、本サイトを読んだ影響をお聞きするほうは現在も続けています。サイトを立ち上げたときは自分の研究の材料にする気はまったくなかったんですけど……。

「本サイトの影響について」のアンケート。読者の属性とサイトを訪れた動機、読後の気持ちなどを尋ねている

―― 協力の可否でフィルターがかかるにしろ、アンケートを通して読者の姿も見えるようになってきたんですね。

末木 そうですね。やはりその人自身や周りの人が自殺を考えたのがきっかけというケースが多かったのですが、行動を起こす直前に……自殺方法や心中相手を探しているうちにぼくのサイトにたどり着いたという人も予想以上にいました。自殺に関する客観的な情報を求めてきた人ばかりではないんだなと、そのとき強く思いましたね。

―― それ以外には、何か方針が変わる意見はありましたか?

末木 僕のサイトを身近な人があまりに読み過ぎているから、ネット依存に関する注意事項も書いてほしいという要請を受けましたね。あとは、自死遺族の方から色々な意見をいただくこともあり、どちらも新しいページを作るきっかけになりました。両者とも「はじめての方へ」にというページから直接飛べるようにしています。

イントロダクションの「はじめての方へ」。ここに2010年2月から「自死遺族の方へ」を、2010年7月に「インターネット依存について」ページのリンクを追加した。2009年はほとんど更新がなかったが、2010年以降はこうした追加ページの編集などが入るようになっている

―― その活動を通して、結果的に見えてきたことを教えてください。

末木 そうですね……僕のサイトは単に情報提供するというだけで、メールや掲示板での相談はやっていません。それども、自殺方法を探していた差し迫った人でも読んでくれるということが分かったのが一番大きいですね。つまり、介入できる可能性がある、直前に思いとどまってもらえるかもしれないということです。

 あとは、アンケート回答で「読んで気分が悪くなった」といった方がほとんどいなかったこと。研究ベースでいえば、読んで気分が良くなるとまでは言えないですけど、悪くなることはないぐらいのことは言ってもいいのかなと、自信が持てました。これを基礎にしてネットでの活動をもっと工夫していけば、効果的に「介入」できる余地が出てくるのかなと思いますね。

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