ドワンゴの「黒字化担当役員」として、ニコニコ動画の指揮を執る夏野剛氏。彼は同時にHTMLの標準化団体「W3C」のボードメンバーも務めている。
そんな夏野氏に、未来のテレビについてロングインタビューを行なっている。記事前編では「Google TV」に代表されるネットテレビについて、いよいよパソコン同様の覇権争いが幕を開けるという予言をしてもらった(前編)。
今回はそこからさらに話を掘り下げていく。企業として新たなプラットフォームを作りあげ、主導権を取る方法について詳しく聞いた。コンテンツへの影響や、かつてのiモードの海外展開も振り返りつつの後編をお読みいただきたい。
じっと見る番組は残る。なんとなく見る番組も残る
―― さて、ネットテレビの普及に従い、「番組」の在り方も変わってくると思います。お話されたように、これまでテレビ画面は放送局(地上波・ケーブルテレビ局)が独占しましたが、グーグルはYouTubeからも、従来のテレビと同様の操作でコンテンツを選べるようにしようとしています。
夏野 両方が共存していくことになるでしょうね。特にワールドカップのような大規模な生中継はネットではできないわけです。またユーザーにとっては、放送波で来ようがオンデマンド来ようが見られれば良い。
放送波はライブ中心になり、インターネットはよりオンデマンド寄りになっていく。ただしライブの中でも、Ustreamやニコ生みたいなものは別ですよ。いわば「マス・ライブ」が放送波、「ミニ・ライブ」とオンデマンドがネットという役割に分かれていくと思います。再放送という枠組みは意味を失っていくかも知れませんね。
―― 先日の「はやぶさ帰還」はニコニコ動画でも中継されて評価される一方、どうしてテレビ局がこれをやらないのか、という批判も出ました。
夏野 放送波のチャンネルは限られていますからね……。でもCSやBSなど、特に専門チャンネルではやっても良かったんじゃないかなと思いますよね。そういった専門チャンネルは映画などのアーカイブ中心の編成になっていますよね。でも、それらはネットでのオンデマンド配信に置き換わっていくと要らなくなっていく可能性はある。
―― そうなると、放送波の専門チャンネルは何を流していけば良いのでしょう?
夏野 ユーザーは仕事から疲れて帰って来て「何を見ようか」と検索しようとはしない。放送型と通信型のコンテンツの違いは、受け身か、自分からアクションを起こさないといけないかという点です。お酒を持ってきて、テレビで流れている番組をそのまま見ちゃうという世界はこれからも続くと思います。
―― よくテレビ(放送波)の編成担当者は、「その曜日・その時間帯の視聴者の気分に応じて番組コンテンツを用意していく」と言ったりしますね。
夏野 まあ、でもこれだけ視聴者のライフスタイルも多様化してくると、気分を推し量ることも難しいでしょうね。夜だからゆっくりしたいという人ばかりじゃなくて、夜からますます盛り上がってくる人もいる。
だから時間帯というより、チャンネルがあるテーマで統一されて編成されていくという方向になっていく方が、お客さんにとっても良いと思いますよ。いずれにしても、オンデマンドばかりでは、新たな発見がなくなってしまう。
―― ニコニコ動画で毎日配信している「とりあえず生中」にはそういった狙いが?
夏野 あれは曜日によってテーマを変えていますが、「こういうこともできるんだよ」というショーケースですね。もともと関心がなかったけど、見てみたら面白かった。そういう気づきを与えられるかどうかが、メディアかメディアじゃないかの違いだと思ってます。
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