いま「テレビ」が熱い。
放送局としてはTBSがインターネット事業「TBSオンデマンド」を黒字化した。放送側がネットに対する取り組みを強化する中、テレビというデバイスそのものをネットにつなげてしまおうという動きが本格化している。「ROBRO TV」もその1つだ(関連記事)。
5月に発表された「Google TV」は、HTML5対応のウェブブラウザーをそのまま採用している。映像だけではなく、アプリなどPC/携帯で使えるコンピューティングを、そのままテレビで実現するものとして注目が集まっている。
ドワンゴなど数々のIT企業の取締役を務め、慶応大学SFCでは教鞭も執る夏野剛氏も、この大変化への対応を唱える一人だ。
日本メーカーがなぜiPhoneを生めなかったのか。そう疑問を感じている読者は多いはず。実は日本が得意とする黒物家電の代表格テレビにも同様の危機が迫っている。これまでネット対応をうたった多くのテレビは消えていった。Google TVはそれらと本質的に何がちがうのか。日本のプレイヤーはその変化とどう向き合うべきなのか。
まずは動画サイト「ニコニコ動画」の黒字化について、そしてネット時代の「テレビ」のありかたについて。夏野氏へのロングインタビューで明らかにしていきたい。
ニコニコ動画は「黒字基調の維持」が秘訣
―― 今年2月にこの連載でドワンゴ小林社長に取材しました。そのときニコニコ動画の黒字化は間もなくという話でしたが、すぐに達成されましたね。「黒字化担当役員」として振り返ってみていかがでしょう。
夏野 黒字基調は「維持」します。黒字基調を拡大しつつも、成長のための投資は惜しまない方針です。わたしが参加してからニコニコ動画では「ハイブリッド型」のビジネスモデルを指向してるんですね。「広告」と「有料会員」の両方を進めているわけです。
配信などのベースのコストは有料会員からの売り上げを充て、利益や全国会議などのイベントの費用は変動する広告収入をみながら決めていく。社内的には「収益化委員会」を、私がヘッドとなって開いています。
コストをおさえるのではなく、「何がコストでかかるとき、どんな収入が上がるのか」という収入とコストのバランスをみなに意識付けさせる会議をしています。どんな新機能を開発するか、楽しいイベントをやるか、というのもすごく大事だと思ってます。
そういった新しい取り組みへのスピードを落とさないまま黒字にするというのが目標だったんです。恒常的にそういった体制にできたのが大きかった。でも、結果として広告収入がそれほど伸びなかった。
―― 月ベースでみると下がっている時もありますね。
夏野 広告は変動が大きいので、僕は年ベースでみるようにしています。年を追うごとに広告収入は伸びてますが、ホントは10倍くらい伸びてほしいと思ってるんです(笑)。
―― 決算発表でもふれられた、「一般化」がそのためのカギですか?
夏野 ぼくはすでにニコニコ動画の一般化はなされていると考えてますよ。会員数がすでに1800万人もいて、日次のユニークユーザーアクセスは280万にも達している。これで一般的じゃないといわれるなら、ツイッターだって一般的じゃないということになりませんか。オタクだけでこれだけのアクセスはかせげませんよ。
実際には「チャンネル」がそこに貢献したと思っています。収益源としては大したことないですが、アクセスはずっと伸びてます。チャンネル内の生放送も人気です。政治家・芸能人の番組も盛んで、そういった人たちのいわゆる「インターネットアレルギー」みたいなものがなくなったんじゃないですかね。
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