夏野氏の考える「変革の起こし方」
―― 夏野さんがそれを主導していく、ということはお考えではないですか?
夏野 そういうチャンスがあれば是非やりたいですね! でも、狙ってできるもんじゃないからね。振り返ってみると、僕はドコモに就職するなんてそもそも思ってもいなかったし。人生って、1年後に何をやっているか分からないですから。いずれにしても、そういう機会があれば、かなりお役に立てる、という自負はありますよ(笑)。
ただ、僕なりにいろんな経験をこれまでしてきて、僕らより上の世代のいわば抵抗はなかなか難しいものがありますよ。それを突き崩すのはホントに大変。だから僕は、待ってるんです。日本がもっとこれから厳しい局面に入ってくるのを。
でも今の日本の企業や政治の議論を見ていると、まだ余裕がある。危機感がない。そういうときに無理して人の心を変えようとしても難しい。社会変革を起こすとか大きなプラットフォームを作るときは、それなりの社会的なニーズが出てきたときが良いと思うんですよ。
iPhoneが実はまさにそれなんですよね。ヨーロッパやアメリカ市場が、ケータイでは日本の状況に5~6年遅れていた。どうして日本みたいにならないのか。ネット企業にはフラストレーションがすごくある。これはグーグルのエリック・シュミットも言ってます。
そんな状況の中に、突如iPhoneが現れて、圧倒的に支持された。そういう世の中のタイミングはすごく重要なので、だから、無理していまやるつもりはないんです。
―― いまは時期を見ている。
夏野 いやー、未来永劫ないかも知れないし。僕はね、計画通りに生きることなんてできないと身をもって分かっているんです。だから、逆に言えば、そういうことがあればいつでも立つんですけど。うーん、わかんないな。一生このままかも知れないし。
―― ははは。だんだん、夏野さん個人に関心が移ってきてしまっているのですが、尊敬される人物がいたりしますか? 歴史上の人物とか。
夏野 うーん、歴史上の人物では特段……実際に会った人でも、それだけで全人格を把握できるわけじゃないし。でも、自分の意見を持っていて、かたくなではなく、合理的な信念をもっている人は、みんな尊敬してますよ(笑)。
―― なるほど。今回は長時間・多岐に渡り、ありがとうございました!
夏野氏は他のインタビュー同様、突っ込んだ質問にも飄々と応じてくれたが、日本の置かれた環境への危機感について語るときは、言葉に力が籠もっているのが印象的だった。
日本の成長を支えてきた家電・自動車といった輸出産業に、いまネットへの対応、あるいは環境対応といったパラダイムシフトが断続的に求められている。
iモードについての質問では、ドコモという企業のある種特殊性が浮き彫りになったが、もし仮に、夏野氏がフリーハンドで海外展開に取り組んでいたらどうなっていただろうか、と筆者は思わず、歴史のifを考えてしまう。
テレビにもたらされる変化は、もちろんこの連載のテーマである、動画ビジネスの収益性という面にも大きな影響を与える事態だが、それを越えて、さらにここから考えるべきことは多いと言えるのではないだろうか。
著者紹介――まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+Gmail」など。公式サイト 松本淳PM事務所[ampm]
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