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クラウドをつかめ 第5回

分散処理技術やデータセンターの最適化を披露

基盤技術で勝負!IIJお手製クラウドは近々離陸

2009年05月29日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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5月28日、大手ISPのインターネットイニシアティブ(以下、IIJ)はクラウドへの取り組みと技術を説明する記者セミナーを行なった。ここではクラウドの基盤となる分散処理技術やデータセンターの最適化などのプロジェクトが披露された。

IIJのクラウドがいよいよ始動

クラウドのサービス化について語るIIJ社長の鈴木幸一氏

 セミナーの冒頭に挨拶に立ったIIJ社長の鈴木幸一氏は「IIJとしては、アプリケーションを提供するプロバイダに対して、インフラを提供する。ネットワークやデータセンターの運用ノウハウに関しては長年の蓄積もあるし、以前からファイルの分散やストレージ管理、新しい通信の形などの技術は開発してきた。なんとか12月にはサービスを開始したい」とクラウドのサービス化について語った。

SaaSの下支えを提供するという方向性を語るIIJの時田一広氏

 IIJは2000年から「リソース・オンデマンドサービス」というコンセプトで、プライベートクラウドに近いアウトソーシングサービスを提供している。また、それを支えるために数千台規模のサーバの集約化や分散ファイルシステム、管理システム、モジュラ型データセンターなどの技術や要素を開発・運用を行なってきた。しかし、「昨今市場や経済動向が変わってきたこともあるので、今までのサービスをきちんと整理して、IIJのクラウドを提示したい」(ソリューションサービス本部 取締役本部長 時田一広氏)という方向性だ。

 具体的には「競争力のあるインフラを競争力のある価格で提供する」というイメージになり、あくまでIIJ自体がSaaSなどを充実させるというものではない。SaaSやプラットフォーム基盤業者をターゲットとしたサービスの青写真も公開され、ネットワーク、データセンターなどのノウハウを持つIIJの強みが強調された。

IIJのクラウドを実現する
分散処理基盤「ddd」

 IIJがクラウドを実現するための技術の例として紹介したのは、ddd(distributed database daemon)という分散処理技術とNHN(Next Host Network:次世代ホストネットワーク)の2つである。

IIJクラウドの技術を支えるdddは分散処理基盤とNHNはデータセンターの取り組みになる

 dddはもともとクラウド向けの技術ではなく、「Salon」というNetFlowの解析システムの一部で開発された分散処理技術である。NetFlowはルータから出力されるトラフィック情報を解析する仕組みで、バックボーンの情報を蓄積・グラフ化することができる。こうしたログはISPにとっては宝物のような情報だが、1日数GBにも上る膨大な容量になるため、格納先にはdddのような「分散ファイルシステム+分散データベース+分散データ処理機能」が必要になったわけだ。

 dddクラウドは自律したP2P型のノードで構成され、分散ハッシュテーブルによって各ノードにデータが配置されている。そして、処理リクエストが来ると、グーグルなどが採用する分散データ処理技術「MapReduce」によって、dddクラウドの複数のノードに振り分けられる。そして、分散的に処理された結果は最終的に収斂されて、出力されることになる。dddのソフトウェアはCやRubyを用いて、フルスクラッチで開発されたという。

IIJ ネットワークサービス本部 副本部長 木村和人氏

 IIJが100GB超/月のファイアウォールのログ解析をdddクラウドを行なったところ、ノードを追加するとほぼ並列に処理の向上が実現することがわかった。こうしたdddクラウドはログ解析や検索はもちろん、アプリケーションなども含めたコンテンツ配信にも応用できるという。

 ネットワークサービス本部副本部長 木村和人氏は「IIJはデータセンターとネットワークという『点と線』を押えている。データセンター間の通信を制御し、データの配置を適正に変えられる。これによりトータルでコスト低減や安全性向上を提供できる」とIIJの強みを説明した。

サーバ構成の最適化を実現する
「NHN」の取り組み

 dddとともに進めているのが、NHNというよりレイヤの低いデータセンター最適化の取り組みだ。IIJでは、2008年春の段階で200ラック以上、数千台のサーバが都内のデータセンターに設置されていた。しかし、サービス単位にラックを確保したため、構成変更のたびに現地作業に出かけていたという。また、需要増を見越したラックの確保が難しかったり、ハードウェアの保守費用の増大、消費電力の増大なども課題もあった。

 こうした課題を解決するため、NHNは遠隔データセンターの導入を含め、構成の最適化を進めたのが、NHNである。具体的には、サーバプール方式を採用することでリソースを即時に供給できるようにしたり、配線変更なしでリモートからネットワークの組み替えを可能にしたり、あるいはiSCSIストレージ導入により、サーバ自体をディスクレスにするといったいくつかの取り組みを行なった。これにより、即時駆けつけの撤廃や作業の集約化が実現した。

 また、サービス単位でのラック割りを廃し、省電力サーバと仮想化技術も導入。これにより物理サーバの台数を減らすとともに、サーバの収容率を向上することが可能になったという。

クラウド環境の構築は今年中。来年はサービス開始へ

 こうした基盤技術を元に構築されるIIJお手製のクラウドは、サービスインを間近に控えている。スケジュール的には、本年中に既存のデータセンターでのクラウド環境を構築し、来年にはモジュラ型データセンターでのクラウド基盤を実現。今年度中にはインフラサービスを提供する予定になっている。

 クラウドというと、GoogleやAmazonのような何万台のサーバをベースにした規模の論理に大きな注目がいくが、IIJはあくまで数千台という規模にとどまるとのこと。その代わり、グリーンIT対応や地理的配置なども日本ならではの形で模索していくことになりそうだ。サービス提供に際しては、市場を拡大させる競争力のある価格や、より尖った技術の導入を望みたいところだ。

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