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サーバメーカーとしての覚悟

2000年11月18日 10時06分更新

文● 渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp)

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 Sun Microsystemsは、Solarisの標準GUIとしてGNOMEを採用することを発表した。これは、SunがGUIの開発を放棄するという意味に取ることもできる。

 Sunは、GUIの開発に関しても比較的早い時期から取り組んでいた。本連載のタイトルとしても名称を拝借しているが、「SunView」というSunの独自ウィンドウシステムがまず提供された。個人的な経験になるが、SunViewを初めて見たのはPCの世界ではまだWindowsはVer.2で、リバーシで遊ぶ以外に何の使い道もなかった頃だったと思う。その時点でモノクロハイレゾディスプレイの高精細画面で動作するSunViewはとても魅力的なユーザーインターフェイスに見えた。その後、SunはNeWSというウィンドウシステムを開発するが、X Window Systemとのシェア拡大競争に破れ、結果的にはNeWSの機能を一部引き継ぎながらも基本部分をXとしたX11/NeWSを採用することとなった。X上のWidget Setに関しても、OpenLookとMotifの争いを経て、結局はMotifの発展型であるCDEが現在のSolarisの標準デスクトップ環境となっている。こうしてみると、SunはGUI環境の開発では先陣を切りつつも結果としては負け続けたと言わざるを得ない。

 ただし、UNIXワークステーションメーカーとしては、GUIは商品力を高める上でも極めて重要な要素だったに違いない。専用のスクリーン上でプロフェッショナルユーザーが長時間作業することが前提となるワークステーションでは、GUIの善し悪しはユーザーの製品に対する評価を直接左右しかねない。そのため、ユーザーからのフィードバックを反映して開発努力を継続し、品質を高めていくことはメーカーとして当然取り組むべきことだったはずだ。

 今回GNOMEの採用が発表されたことで、SolarisのGUI環境の構成が再度変化することになるだろう。現在Solarisでは、OpenWindowsとCDEの2種類のデスクトップ環境が提供されているが、標準はCDEであり、OpenWindowsは互換性のために残されているだけで、サポートが継続される保証はないという扱いである。個人的な予想だが、GNOMEの採用によってOpenWindowsのサポートはうち切られ、CDEが現在のOpenWindowsと同様のバックワードコンパチビリティのためだけに残されている、という状況になるだろう。

 GNOMEの採用によって、ユーザーにもメリットが生まれる。さまざまなUNIX系OSのユーザーインターフェイスが統一されることになるため、異なるシステムの使い方を個々に憶える負担が減るだろう。また、Solarisユーザーにとっては、Linuxを中心に開発されているさまざまなソフトウェアをSolaris上で簡単に違和感なく使えるようになるはずだ。オープンソースコミュニティと密接な連携を取り、かつオフィスソフトウェアやメール、スケジューラといった基本的なツールを提供するベンダーも参加して結成されたGNOME Foundationによる開発は、Sunが独自に開発するよりも速いサイクルで改善が行なわれるだろうことも期待できる。

 ただし、前述したようにGUIがワークステーションにとって重要な要素であったと考えるなら、GNOMEの採用はワークステーションメーカーとしてはかなり重大な決断であるはずである。従来のSolarisではカーネル部分とGUI部分は歩調を合わせて改良されており、ユーザー環境としては統一されていた。しかし、今後はSolarisのバージョンアップとGNOMEのバージョンアップが独立して行なわれることになると予想される。結果として、カーネルとGUIの組み合わせに何通りものバリエーションが生じ、一時的には混乱が生じることも考えられる。場合によっては、Solaris用に販売されている商用アプリケーションで互換性問題が生じる可能性もないとはいえない。

 こうしたリスクがあるにもかかわらず、SunがGUI部分へのコントロールを手放した理由は何だろうか? もちろん、オープンソースコミュニティとのかかわりや、結果としてよりよい環境が利用可能になるという現実的な判断など、さまざまな要素が複雑に関連しているとは思うが、私としてはこれはSunのワークステーションからの決別宣言であり、サーバメーカー専業とするためにあえて退路を断った決意の表われではないかと考えている。

 サーバOSにGUIは不可欠の要素ではない。カーネルおよびネットワーク周りの信頼性が最優先で、GUIはあれば便利かもしれない、という程度のおまけでしかないのだ。脇道にそれるが、MicrosoftがWindows NTから2000にかけてサーバ市場の獲得を目指しながらそれに成功していないのは、WindowsがGUIベースのOSである点も重要な要素ではないかと考えている。専用サーバとして利用する場合、GUIを動作させておくことは単なるリソースの無駄遣いにとどまらず、システムの安定性に悪影響を与えるマイナス要因だと思うからだ。ともあれ、SunはGUIにGNOMEを採用することで、社内の開発リソースをサーバ用途に必要な部分だけに集中できるはずだ。従来のSunは、「ワークステーションメーカーだったが、いつの間にかサーバ市場が拡大して利益が大きくなり、サーバの比重が高まった」という感じで漸進的な移行を行なってきたように見える。それが、ここに来てついに意識的にサーバ以外の領域への関与を減らし、サーバに集中する決意を明らかにしたといえるのではないだろうか。

 GUIに加えてもうひとつ、サーバメーカーとしてのSunの戦略上とても重要な存在になると思われるのが、11月8日に日本でも発表になったCOD(Capacity-On-Demand)プログラムである。これは、サーバの販売形態を根本から変える可能性のある新しい概念を導入したという点で興味深いものだが、残念ながら今回はこの話題には踏み込めないので、次回に改めて取り上げることにしたい。

渡邉利和

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