人同士がつながってビジネスも連携していく
徳力氏はアジャイルメディア・ネットワークに参画するまで、NTTやIT系コンサルタントファーム、そしてアリエル・ネットワークというベンチャー企業に勤務している。こうしたキャリアの中で感じたこと、また今後のアジャイルメディアネットワークについて、聞いた。
――NTTではどういったお仕事をされていたのでしょうか。
徳力氏:3年間法人営業を経験して、その後本社の総務部株式担当でIRの仕事をしていました。その1年後にNTTの再編成があって、そのまま持ち株会社に移りました。ただ自分の中では新規事業をやりたいという気持ちがあったのと、それ以外にも色々とあって退職することになりました。もし当時の自分にアドバイスできるとしたら、「辞めるな」っていいますけど(笑)
その後IT系のコンサルタントファームに1年間勤めました。ステップアップとしては必要だったと思いますが、コンサルタントには向いていないということを確認した1年でしたね。
コンサルタントの仕事は、どうしてもプロジェクト完了と同時にその仕事は終わってしまうんですよね。僕はずーっと付き合いたいと考えてしまうタイプなので、プロジェクトが終わるのが残念で仕方がないんです。そういう意味では、1つの新規事業に向き合い続けるベンチャーの方が体質的には向いていたのかもしれません。
そういったこともあって、その後P2Pの技術を使ったグループウェアなどを開発していた「アリエル・ネットワーク」という会社に転職しました。ここではエンジニアが大半の会社だったので、マーケティングとしてさまざまなことに携わりました。
ただ、このときはある意味ですごい孤立した状態だったんです。そんなときにブログを始めて、梅田さんを中心としたオフ会に参加したらすごい濃い人たちがたくさんいた。それでその人たちが入っているSNSに参加したんですが、そのときに分かったのはそういった濃い人たちがみんなつながっていたということ。
それまでは、「仕事をまじめにやっていれば、ほかの会社が寄ってきて企業間の連携などが行なわれる」と考えていたのですが、順番を間違えていたことに気づいたんですね。
当然ビジネスの相性がいいから組むというのもあるんでしょうけれど、やっぱりその中には人がいて、人同士がつながってビジネスも連携していく。そこが見えていなかったのですが、違うんだと気づいてからは心を入れ替えて、いろいろな所に出かけて人と会ったり、ブログを使ってコミュニケーションを取ろうとしたりと行動スタイルを変えました。これでネットワークが一気に広がりましたね。こういうことを考えると、ブログを始めて本当によかったなというのが正直な気持ちです。
――その後アジャイルメディア・ネットワークで仕事をされるようになったわけですね。2月1日から社長になって、何か変わられましたか。
徳力氏:社長としてやらなければいけないことは増えましたが、仕事の内容自体はそんなに変わってないですね。それよりも大きく変わったのはプレッシャーですね。事前に考えていたよりも、社長のプレッシャーというのはすごいなと。本当にね、変な夢を見るんです。大学を卒業できないとか、口の中で歯が折れてバラバラになっているとか(笑) 一番最後に責任を取らなければいけない、そういう立場になったことのプレッシャーはものすごくあります。
――アジャイルメディア・ネットワークで目指しているのは、どういったことでしょうか。
徳力氏:「企業」と「読者」と「書き手」の3者共に価値のあるマーケティングを模索していくのが、アジャイルメディア・ネットワークの使命だと考えています。特に、インターネットは情報を発信するだけではなくて、利用者の意見を「聞ける」、つまり会話が成り立つことが最大のメリットだと考えており、こうしたネット上の会話(カンバセーション)を意識したマーケティング、「カンバセーショナルマーケティング」の実践に挑戦しています。
たとえば、最近は、ブロガーイベント等のブロガー向けの施策が増えていますが、アジャイルメディア・ネットワークではそれをさらに進めて、オンラインとオフラインを組み合わせたマーケティングの一連のプロセスをコーディネイトしていきたいと考えています。
最近多いケースでは、単純にブロガー向けのイベントを実施するだけでなく、その記事を企業の公式サイトにもアーカイブとして掲載したり、我々が提供している「ソーシャルバナー」でさまざまなサイトに配信したり。自社サイトやソーシャルメディア、PRや広告など、複数の手法の組み合わせが重要だと考えています。
――口コミ(WOM:Word Of Mouth)マーケティングに関する業界団体の立ち上げを目的とした「WOMマーケティング協議会設立準備会」にも関わられていますね。これにはどういった問題意識があるのでしょうか。
徳力氏: 最近のネットマーケティング手法の中には、あまりにインターネットに対する愛がないようなサービスや、倫理的に問題があるサービスがあると感じています。たとえば、私が“ペイパーポスト”と呼んでいる、数百円程度の報酬でブロガーに記事を書かせるサービスの中には、SEO効果だけを売り物にプレスリリースのコピペのような記事を大量に生成するようなものがあります。
こういうサービスによりやらせ記事やスパム記事のようなブログ記事が乱発されると、ブログ記事の価値や信憑性が下がってしまいますし、最終的にブログ市場の首を絞めることになります。ひいては、インターネット上のコミュニケーションの価値を下げてしまうことにもなりかねません。
こういった問題意識を共有し、あるべき姿を議論していく場ができれば、という人たちが集まっているのが、WOMマーケティング協議会設立準備会です。
業種を問わず、幅広く発起賛同人やメーリングリスト参加者を募集中ですので、興味がある方は是非ご参加ください。
――長時間、ありがとうございました。
お話を伺っていて強く感じたのは、ブログをはじめとするソーシャルメディアに対する強い愛情だ。徳力氏はプロフィールにおいて自身のことを「ネットコミュニケーションの水先案内人」と記しているが、今後どのような世界へソーシャルメディアを導いていってくれるのだろうか。
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