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時事ニュースを読み解く “津田大介に聞け!!” 第26回

変わる著作権者の意識 本当の「創作振興」とは?

2008年09月30日 15時45分更新

文● トレンド編集部、語り●津田大介(ジャーナリスト)

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津田大介氏

津田大介氏

 著作権に関しては、ひと筋縄で解決できない難題が多い。「著作権の保護期間延長」もそのひとつだ。

 現在、日本において、小説や音楽、写真、美術といった作品は、作者の死後50年まで著作権の保護期間が設けられている(映画は公表後70年)。作者の死後は、その子孫などが著作権を受け継ぐため、例えば小説を元に映画を作りたいといったケースでは、その子孫に許諾を取ったうえ、場合によっては対価を支払うことになる。逆に言えば、作者の死後50年経っている作品は、自由に書籍化や映画化できるわけだ。

 欧米などではこの保護期間が日本より長く、70年だ。そうした背景が影響して、日本でも保護期間を70年に延長しようという話が持ち上がった。その後、文化庁で専門の会合(文化審議会著作権分科会「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」)が設けられたが、今まで「延長する」「しない」で意見が分かれていた。

 そして18日、「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」の最新の会合が開かれて、「50年のまま」「70年に延長する」という両論を併記した中間整理を出して、小委員会の上の組織である「著作権分科会」に提案することになった。

 過去の話し合いでどんな経緯があって、なぜ両論併記という結論になったのか。委員として会合に参加する、ジャーナリストの津田大介氏に話を聞いた。



「延長する」「しない」で平行線


── これまでの状況を津田さんの視点から整理していただけないでしょうか。

津田 保護期間延長の問題は、ここ2年ほど著作権界隈でずっと話し合っているテーマです。2006年の9月に16の権利者団体から「著作権法を改正して、保護期間を50年から70年に伸ばしてくれ」という要望が出ました。当時は目立った反対運動もなく、問題設定がシンプルだということもあり、放っておけば深い話し合いもないまま延長する雰囲気だったんです。

 ただ、法律というのは一度決めたら、あとで変更するのは大変です。特に保護期間については一度延ばしてしまうと、あとから不都合があるから短くしにくい。だから延長するにしても、もう少しきちんと議論してから決めた方がいいだろうと。

 そういう問題意識の下、弁護士の福井さん(福井健策氏)と一緒に「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」(現・著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム、通称「Think C」)を2006年11月に立ち上げました。その後、シンポジウムなどを開いて、さまざまな視点から問題を提起してきています(関連記事その1その2その3その4)。

記者会見

「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」発足時に開いた記者会見の様子

シンポジウム

Think Cが開いたシンポジウムの様子

 それが功を奏したのか、「反対する人々の意見もあって、すぐに延長するのは難しい」という状況を文化庁に受け止めてもらえました。そうして、文化審議会内に保護期間の延長問題と過去の著作物の流通促進を話し合う「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」が発足したんです。

 その際、フォーラムは「権利者団体だけでなく延長に慎重な創作者の意見も入れるべき」と文化庁に働きかけました。結果としてフォーラムの発起人でもある平田さん(劇作家の平田オリザ氏)が委員に選ばれています。また、審議会のヒアリングにもフォーラムの発起人になったさまざまなジャンルのクリエイターが呼ばれ、それが多様な視点からの議論を喚起する結果になったと思います。

 しかし多様な意見がもたらされたことで、小委員会では賛成派と慎重派の議論が2年近く平行線をたどることになりました。どちらの声が優勢になるというわけではなく、そもそも議論が交わらない感じでしたね。

 小委員会の意見を取りまとめる著作権分科会は、2009年1月までに今後の方針を出さなければいけません。先の会議の時点で小委員会で話し合えるタイムリミットが来てしまったので、保護期間については両論併記、何らかの結論を出すことはしないという形で中間整理を実施しました。

組織図

文化庁文化審議会の組織図。過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会でまとめた意見は、著作権分科会にて報告される

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