10月、インターネットではエニグモが7日にスタートした「コルシカ」という雑誌のオンラインストアが話題になっていた。
コルシカの最大の特徴は、雑誌がデジタルデータでも提供されるという点。今までオンラインで雑誌を買うと、実物が届くまで待っていなければならなかった。一方、コルシカでは、誌面をスキャンしたデータがインターネット上で提供されており、雑誌を購入するとウェブラウザーを使ってすぐに読める。デジタルデータの価格は、雑誌の定価と同等。その上で紙の雑誌がほしければ、配送料を追加で払って送ってもらうという仕組みになっている。
ただ、エニグモはデジタルデータの公開について出版社に許諾をとらずにサービスを始めていたため、8日、日本雑誌協会からこの件について抗議文が出された。9日、エニグモ/日本雑誌協会で話し合いを持ったというプレスリリースが出た(関連リンク)のち、最終的に13日を持ってコルシカはサービスを一時停止することになった。
一体、今回は何が問題だったのか。コルシカのサービスはどのような背景から生まれてきたのか。ネットと著作権に詳しいジャーナリストの津田大介氏に話を聞いた。
法的には「真っ黒」
── 今回の一連の流れについて、どう感じられましたか?
津田:著作権的な観点から言うと、コルシカは議論の余地なくアウトということですね。
ネットの一部には「日本にフェアユースが導入されればOKになるんじゃないか」という意見もありますが、それはあくまで米国であればフェアユースの抗弁が可能ではないかという話で、「フェアユースがあればOKになる」ということではありません。
ましてやフェアユースが導入されていない日本では、雑誌をデジタル化してデジタルデータと一緒に販売する行為が出版社の複製権や公衆送信権を侵害することになるので「真っ黒」という話になってしまいます。
※フェアユース 著作物を公正に利用するなら、著作権の侵害にはあたらないという法律の原理。詳細はこちらの記事を参照。
雑誌の実物を購入した人に対して、付加サービスとしてオンラインでも見られるようにユーザーの私的複製を手伝ったという解釈もできますが、そもそも日本の著作権法では他人が個人の私的複製を手伝うことを認めていません。私的複製は、あくまでユーザーが自分の目的でやらなければいけないわけです。
ただ、そうは言っても、コルシカはある意味、ものすごく便利な本屋さんであり、ユーザーの感覚からすれば、「金を払って買ったんだから、スキャンしたものが見られて何か問題あるの?」と思う人もいるでしょう。出版社の利益をどれくらい損なっているのか、むしろ付加価値を付けているのだから雑誌の売上に貢献するのではという声もあります。
米国ではフェアユースの抗弁ができるため、相手の市場を損なわず、ビジネスルールで対応できそうな著作権侵害のサービスの場合、裁判で白黒はっきりさせない限りどうなるか分からないという状況があるわけですね。
そうすると、結果的に関係者が協議して事後的にルールが整備される余地が大きくなる。しかし、日本の著作権法は「侵害するかしないか」ということがすべてで、また「黒」であるサービスならば、たとえ売上に貢献しそうであってもとりあえず潰すというスタンスの権利者も多いんです。だから、相手の利益を侵害するか否かという話以前に、NGになってしまうわけです。
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