
社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は25日、「動画共有サイトに代表される新たな流通と著作権」と題したシンポジウムを開催した
YouTubeやニコニコ動画といった動画共有サービスでは、日常的にテレビ番組が無断でアップロードされるという著作権侵害の問題が起こっている。一方で、テレビ番組などの動画コンテンツを持っている日本のコンテンツホルダーは、積極的にネットにコンテンツを提供しておらず、有料の動画配信サービスもいまいちぱっとしない。
消費者の中には「ネットでテレビ番組が見られたら便利なのにねー」という感覚の人も少なからずいるが、なぜテレビ番組はウェブ上で流せないのだろうか?
25日に行なわれたJASRACのシンポジウムでは、IT業界、省庁、放送業界などの出身者5名がパネルディスカッションに参加。その場では、「儲ける仕組みがないのに、とりあえずコンテンツを提供しろと言われても……」といった、ある種、戸惑いのような企業側の声も聞かれた。論点について簡単にまとめると、下記の3点になる。
1)著作権法の改正でネットのコンテンツ流通が増えるのか?
・改正だけでは問題が解決できない
2)なぜネットにテレビ番組が流れないのか?
・ビジネスモデルを提案できていない
・マスメディアとネットメディアでは特性が違う
3)ネットでどうやってビジネスを成立させるか?
・ネットならではのコンテンツを用意すべき
1)著作権法の改正でネットのコンテンツ流通が増えるのか?
まず話題に上がったのは、著作権に関する話だ。現状、古くなっている著作権法がネットの正規コンテンツの流通を阻害しているとの意見もあるが、これに対して違う見方を提案したことになる。
立教大学社会学部メディア社会科准教授の砂川浩慶氏は、「悪者探しからは、何も生まれない」と語る。慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏も、「必ず著作権法が悪者にされる」と前置きして、現状の法律のままでも、契約や報酬を変えることで、ネットのコンテンツ流通を促進できるとする。
2)なぜネットにテレビ番組が流れないのか?
放送業界がネットにテレビ番組をあまり出したがらない理由のひとつには、収益を上げにくいという問題がある。シンポジウムでも、ビジネスモデルの不在について複数の意見が飛び出した。
(株)ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏は、「インターネットの業界が始まって以来、コンテンツで儲けるためのビジネススキームが出たことはない」と話す。
川上氏 例えば、われわれがテレビ番組をニコニコ動画に出してくれとお願いしたとします。やっぱり相手の立場だったら出さないです。出す理由がないんですよ。宣伝になるケースが限定的にあるかもしれませんが、われわれは現段階でコンテンツ業界が儲かる仕組みを提案できていない。
「コンテンツはフリーであるべき」というよくわからないスローガンが蔓延していて、悪く言えば、IT業界は何か理由を付けてコンテンツをタダでだまし取ろうとしていると思われているのかもしれない。
コンテンツの流通経路を増やせば、本当に儲けにつながるのだろうか? (株)ホリプロ代表取締役COOの堀義貴氏は、過去の経験を踏まえてこう語る。
堀氏 われわれがすべてネット配信に反対しているかと言えば、そうではない。ホリプロも7、8年前にネットテレビを有料課金制でやってたけど撤退した。課金で売るコンテンツは見てくれない。消費者のニーズはタダにしろということが一番であって、いいものを見たいわけではない。
コンテンツに関しては「流通させると儲かる」という幻想がある。過去に色々なプラットホームができたときにも同じようなことが言われた。BSデジタルやCS、ラジオの文字多重放送、キャプテンシステムなど、過去にいろいろなプラットフォームが登場してきた。
そのたびに「仕事がたくさん増えて、クリエーターも引く手あまただ」と言われていたが、一回もそういう経験がない。テレビに限定すれば、設備投資が増した分、制作費が落ちて、番組が横並びで似たようなものになってしまう。
(NTTやKDDIなど)伝統的通信事業社の人々には、多分、私たちの言葉は理解できない。「この人たちは一体何を言っているんだ? タダで流しているのを、なぜ安く仕入れて流しちゃいけないの?」とか、そればっかりなんですよ。ここ数年。
マスメディアとネットメディアは違う
ネットに既存メディアのコンテンツが流れにくい理由として、そもそもマスメディアとネットメディアでは特性が違うという視点も提示された。例えば、岸氏の意見は以下のとおりだ。
岸氏 マスメディアというのは、言葉は悪いですが、だーっと流して、チャンネルを合わせていれば死ぬほど見せてくれるもの。それに対してデジタルメディアは、コミュニティーを作るという部分が大事になる。
メディアの特性が明白に違うのに、残念ながら日本ではこの特性を無視して、「マスメディアの延長でネットにコンテンツを流せるはず」「流せば成功するはず」と考えてしまう人が多い。SNSが代表的ですが、新しいマーケットを作っていく努力がないと、新しいメディアが経済的に弱くなる懸念がある。
川上氏は、ニコニコ動画を引き合いに出す。
川上氏 今でもネット用の動画を作っているところがあるけど、テレビに比べると予算が少ないので、表現方法としては「テレビの劣化コピー」になってしまいがちだ。ネット、もしくは動画共有サイトでビジネス的に成り立ってかつ面白いというものは、今は多分ないはずなんです。
ニコニコ動画で流行すべきコンテンツ、もしくは権利者が提供すべきコンテンツは、既存のテレビ番組とは違うものにならなければいけないと思う。ネット独自のコンテンツを作っていくという作業が重要。今あるアーカイブを出すというのは、過渡期には業界を広めるために重要かもしれないが、それはコンテンツホルダーに関係ない話でしょう。
堀氏は、ネットは「マス」ではなく、「コア」で勝負するところと言う。
堀氏 マスメディアは広くあまねく知らせる存在だと思うが、インターネットでは「バカ当たり」を最初から狙えない。いかにしてコアのグループを作るか、それをいくつ作るか、いつそれがまとまるかを考えるべき。ネットはコアメディアの集合体になったときに力を発揮する。今の時代、情報は流し手ではなくて、受け手が選択できる時代になっていて、そこがインターネットの面白いところ。
