インターネットや電話などの通販で薬が買えなくなる──。
ここ数ヵ月、インターネットを騒がせた話題に「改正薬事法」がある。簡単に説明すると、今年の6月1日より施行される改正薬事法で、医師の処方箋なしで買える「一般医薬品」の多くが通信販売できなくなるということだ(詳細はこちらの記事)。
この改正案に反発したのが、ネット企業や消費者だ。「今まで売っていたのが扱えなくなると困る!」「田舎に住んでいて薬が自由に手に入らないのに……」「忙しくてネット通販でしか買えない」といった非難の声が上がり、署名を呼びかける反対運動まで巻き起こった。
そうした状況を踏まえて、厚生労働省は2月に「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」(検討会)という話し合いの場を用意。そして6回の会議を重ねた結果、今後2年間の経過措置として、顧客が今まで使っていた薬を継続販売する場合や、離島に住んでいるときに限って通販を認める方針となった。今後は18日までパブリックコメントを募集して、6月の改正を目指す。
一体、この「騒動」はどんな経緯で話し合いが進み、なぜ2年間の経過措置が設けられることとなったのか。ネットに詳しいジャーナリストの津田大介氏に話を聞いた。
結論の出し方が「異例」
── 津田さんはご自身のウェブサイトで第6回検討会のレポートを公開されていました。検討会の様子はどうでしたか?
津田:厚労省がネットで公開している議事録は読んでいたんですが、検討会に出席したのは初めてだったんですよ。ある種「異様」な雰囲気でしたね。
呼ばれているメンバーは、ネットで医薬品を販売することに否定的な委員と、現在なし崩し的に認められていた医薬品のネット通販を継続したい委員、それとはまったく別のレイヤーでこの問題に巻き込まれた委員です。会議ではそれぞれが対立する意見を言っていて、まったく議論がまとまらない。
通常こうした検討会や審議会は、参加者で論点出しを行なったあと、事務局がそれを整理して一定の結論を出して、それをみんなで了承するというのが基本的な流れになっています。
しかし、今回は議論だけ発散する形でたくさんは出たのですが、それとはまったく関係ない経過措置案を事務局が出して、「時間もないのでこれで進めます」という感じで委員にうかがいを立てた。それでネット通販反対派も賛成派も怒ってしまったという構図ですね。
── 昨年、津田さんが委員として参加されていた「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」でも、意見はまとまってませんでしたよね?
津田 ええ。話がまとまらなかったため「両論併記」という形で報告を出しています。そして報告書や結論については、委員全員が認めている。今回の検討会は、事務局が出した結論に対して誰も委員が認めないという結果ですから、端的に言えば事務局の仕切りとアジェンダセッティングが失敗したということなんでしょうね。
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