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今さら聞けないIT英語 第21回

シンプル? それとも複雑で難解? ubiquitousにおける日米のギャップ

2006年11月10日 00時00分更新

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 近年、IT業界を中心に「ubiquitous(ユビキタス)」という言葉がよく使われるようになった。ユビキタス社会、ユビキタスコンピューティング、ユビキタスネットーワーキングなどという言葉を耳にしたことがある人も多いだろう。そこで改めて、ubiquitousの意味を「リーダーズ英和辞典」(研究社)で確認してみた。

ubiquitous
(同時に)いたるところにある、遍在する

 コンピュータが遍在する社会? いたるところにあるコンピューティング? 理解しにくい言葉だ。では、ubiquitousがIT英語でどのように使われているのかを見てみよう。

 ITに関係する人の多くが知っているであろうRFC(Request For Comment=インターネットに関する技術文書)に、ubiquitousの名詞形であるubiquityが登場していた。

Experience with many protocols has shown that protocols with few options tend towards ubiquity, whereas protocols with many options tend towards obscurity.(複数のプロトコルが利用されている場面では、オプションが少ないシンプルなプロトコルが広くいたるところで[ubiquity]採用される傾向にある。一方で、オプション項目の多い複雑なプロトコルは、あまり使われない[obscurity=人気がない]傾向にある)

 ここで注目したいのは、ubiquityと対比的に使われている「obscurity(人気がない、世に知られないこと)」という単語だ。ubiquityが“いたるところで使われる≒人気がある”というニュアンスであることことから、対比的なobscurityを“世に知られない状態≒人気がない”というニュアンスで和訳してみた。

 いかがだろう? 日本でよく使われているカタカナ語の「ユビキタス」を理解している人は、「そうだ」と思う反面「おや?」という疑問も抱かないだろうか。それはなぜか。次のIT英文を読んでいただきたい。

Ubiquitous computing, or ubiquitous networking simply mean the network environment and usage scenario where all kinds of information terminals, devices and goods embedded with IC chips are connected to various wired and wireless networks.(ユビキタスコンピューティングまたはユビキタスネットワーキングとは、単にネットワークの環境とその使い方のシナリオを意味し、あらゆる種類の情報端末や機器、商品にICチップが組み込まれ、さまざまな有線や無線のネットワークに接続しているようなことを指す)

 IT英語におけるubiquitousとは、コンピュータやネットワークが我々の周囲の「いたるところにある」ことなのだ。一方、カタカナ語のユビキタスは、これ一語でユビキタスコンピューティングやユビキタスネットワーキング、あるいはその概念などを指す言葉として使われている。たとえばユビキタス社会とは「いたるところにコンピュータが存在し、そのコンピュータ同士が連携して人間の生活をバックアップする社会」を意味している。

 本来のubiquitousはいたるところにあるという“状態”を指している言葉で、理解・利用しやすいシンプルなものでなければならない。ところが、カタカナ語のユビキタスは深遠で複雑な“理屈”や“コンセプト”として使われがちになっている。事実、多くの識者がユビキタスを説明する際にラテン語の原義を引きたがる。そうしたユビキタスは、ubiquitousの本義から乖離している部分があるのではないだろうか。

 エンジニアとしては、直面しているものがubiquitousなのか、それともユビキタスなのかを会話内容や文脈などから推理して判断しなくてはならない。

シンプル? それとも複雑で難解? ubiquitousにおける日米のギャップ

Illustration:Aiko Yamamoto

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