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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第249回

インボイスがやってくる

2023年09月19日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 この数ヵ月、仕事を頂いたことのある企業から、ほぼ同じ内容のメールが届く。

 メールの用件は、ひとつ。インボイスの発行事業者になるつもりがあるかどうかだ。

 企業がメールを送ってくるのは、10月1日にインボイス制度が始まるからだ。

 どの企業も、登録が済んでいる人については、登録番号の回答を求めている。

 正直な話、しばらくの間は、こうしたメールは放置していた。よくわからないからだ。

 ただ、ある企業からは、次のようなお知らせも届いた。

「消費税の登録事業者でないことを理由として取引をお断りすることも、インボイス制度導入を理由とする(消費税分の)値下げ要請を行うこともありません」

 この企業について「神か?」と思ったものの、実際のところ、何がどう神対応なのかも正確には理解していない。

 まずは、企業が何を言っているのか、正確に理解する必要がありそうだ。

適格請求書、インボイスとは

 インボイスは漢字で「適格請求書」と書く。税務署が指定する内容を含む「適格」な請求書がインボイスのことだ。

 インボイスを発行する事業者になるのは、大ざっぱに言って、消費税を払うつもりがあるかどうかを宣言するようなものだ。

 税務署に登録しないと、インボイスは発行できない。

 ここに、財務省が用意した罠のような仕掛けがある。

 もともと売上が1000万円以下の事業者は、消費税が免除されているが、インボイスの発行を登録すると、消費税の課税対象になる。

 インボイスの発行を選択すると、今後は、確定申告の際に消費税を計算し、消費税を納めることになる。

 それなら「売上も小さいし、登録せずにいよう」と考えるのは自然だ。

 しかし、事態はそれほど単純ではない。

免税を選ぶとどうなるか

 たとえばフリーランスのライターは、記事を書いてウェブメディアを運営する企業から原稿料を受け取る。

 ライターの側からは、1本1万円の記事の場合、消費税10%を加えて1万1000円を請求する。

 企業は、その記事を税込み110円の有料コンテンツとして販売する。

 有料の記事を300人が買ってくれたと仮定すると、売上は3万3000円になる。消費税は3000円だ。

 企業から見ると、ライターに原稿料を支払うのは、「仕入れ」にあたる。

 記事を仕入れる時は、企業は1000円の消費税をライターに支払っている。反対に、自社のウェブメディアで記事を売る時は、読者から3000円を受け取る。

 この企業が納税する時は、差額にあたる2000円の消費税を納めることになる。

 この処理は、難しい税金用語で「仕入れ税額控除」と呼ばれている。

 ここから先がかなり重要だ。

 ライターが免税事業者のままでいると、企業側は「仕入れ税額控除」ができない。

 企業にとっては、消費税を3000円納めることになり、負担が重くなる。

減額か、取引終了か?

 この時、企業側の担当者はどう考えるだろうか。

 まず、消費税分の減額だ。

 ライターに対して、来月から消費税を上乗せしないで1万円を請求して下さいと言えば、1000円の負担はなくなる。

 いや、そもそも免税の人は面倒だから、仕事をお願いしなければいいではないか。

 発注する企業の立場からは、そう考えるのは、とても合理的だ。

 フリーランスの多い、声優やデザイナーといった職種の人たちが怒っているのは、まさにこの点だ。

 先ほど紹介した、「取引終了も値下げ要請もしない」と宣言した企業は、「消費税分はうちが負担するから、免税事業者でも今後も一緒に仕事しようね」と言っているのだ。

 やはり神対応に見えるが、意地悪く見ると、企業側としては個別の価格交渉の時点で、消費税の負担分を下げておくという対応は可能だろう。

 多くのフリーランスの人たちが、「仕事を続けられなくなる」と怒るのも当然だ。

適格請求書とは

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