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エルサルバドルが2022年5月に公開した「ビットコイン・シティ」の模型 ブケレ大統領のツイートより
仮想通貨を法定通貨にした中米のエルサルバドルが、デフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高いとの見方が強まっている。
同国のブケレ大統領は2021年9月、世界で初めてビットコインを法定通貨にしたが、米国のメディアは最近、その効果を疑問視する記事を相次いで公開している。
たとえば、ニューヨーク・タイムズは「ビットコイン天国エルサルバドルは幻だ」との論説記事を2022年7月2日に公開した。
ワシントン・ポストも7月6日に「中米は、ビットコインで観光客を集めようとしたが、機能せず」との記事を掲載している。
膨れ上がる債務に苦しむエルサルバドルのブケレ大統領は、ビットコインの法定通貨化で、経済の活性化と観光振興を狙ったが、いずれも今のところ不発のようだ。
国際通貨基金(IMF)は、同国に対してビットコインの法定通貨化をやめるよう求めており、エルサルバドル政府の財政悪化が続けば、IMFの要求を受け入れざるを得ない状況も想定できる。
ビットコイン振興策は不発
2021年9月以降、エルサルバドルでは、米ドルとビットコインが法定通貨として併存している。
法定通貨化の際、ブケレ大統領は国民にビットコインの利用を促す大規模な振興策を実施した。
まず、国内にATM200台を設置した。このATMでビットコインを米ドルに交換し、紙幣を引き出すことができる。
さらに、国が開発したビットコインのウォレットアプリ「Chivo」をスマホにダウンロードし、利用を始めた人には30米ドル(約4000円)分のビットコインも配った。
こうした振興策の結果、同国の300万人から400万人がChivoをダウンロードし、ビットコインを手に入れたとみられている。
2020年の同国の人口は約649万人であることを踏まえると、政府の振興策で、エルサルバドル国内でビットコインの利用は一気に広がったと考えられている。
しかし、ビットコイン法定通貨化の盛り上がりは、長くは続かなかった。
2022年4月に米国の研究者らが発表した全米経済研究所の調査結果によれば、Chivoをダウンロードし、30ドル分のビットコインを受け取った人たちの多くはその後、ビットコインを使わなかった。
給付金のビットコインを使い切った後も、Chivoを決済に使っている人は10%程度にとどまり、2022年に入って以降Chivoはほとんどダウンロードされていないと分析されている。
仮想通貨の下落とコロナ禍
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