通信衛星を利用してインターネットに接続する「スターリンク(Starlink)」の日本でのサービスが始まった。
この衛星インターネットは、イーロン・マスク氏が率いるスペースX社が手がけるサービスで、アジアでの提供は初めてとなる。
東日本からスタートし、年内に西日本にサービスを拡大、来年には韓国でもサービス提供を始める見通しだという。
山間部や離島といった地域で高速のインターネット接続が確保される点に注目が集まるが、今回注目したいのは、戦争や強権的な政府でネットへのアクセスが制限される国や地域でのスターリンクの活用だ。
ロシア軍の攻撃で通信インフラが破壊されたウクライナにはスペースX社がスターリンクによるネット接続を提供しているが、最近の報道では、同社の提供する通信インフラが戦況を左右するほど重大な役割を果たしているようだ。
ウクライナの最前線に送られるスターリンク端末
スターリンクのネットワークに接続するには、小型のアンテナなどの機器が必要だが、同社がウクライナ軍に寄贈しているほか、米政府による支援や、クラウドファンディングで提供されている事例もあるようだ。
3月22日付のCNBCは、スペースX社が「数千台」のアンテナなどの機器をウクライナに寄贈したと報じている。
募金を集め、ウクライナ軍に装備などを送っている財団「SERHIY PRYTULA」のウェブサイトを見ると、攻撃用のドローンや車両などに加え、スターリンクのアンテナなども寄贈品のリストに入っている。
ドローンの操縦や兵士たちの情報共有など、戦場においてもデータ通信のインフラは極めて重要な役割がある。
ドローンの操縦者が映像を確認する際にも、衛星からのインターネット経由のデータが利用される。
財団のウェブサイトには、「通信の確保は、作戦の安全や兵士の生命を守るための基盤となる」との記述がある。
10月12日には、ウクライナのフェドロフ副首相がスターリンクについて、次のようにツイートしている。
「100発以上の巡航ミサイルがエネルギーと通信のインフラを攻撃したが、スターリンクのおかげで、重要なエリアですぐに接続を回復できた」
前線で起きた通信障害
地上の通信インフラが破壊されたウクライナで衛星を使った通信が重要性を増す中、10月上旬にはスターリンクに通信障害が発生したという。
10月8日のフィナンシャル・タイムズによれば、ウクライナ東部や南部のロシアから奪還した地域などで、「壊滅的」な通信障害がこの数週間発生したという。
戦闘中にスターリンクの端末の一部が機能しなくなった例もあると報じている。
ロシア軍によるスターリンクの悪用を防ぐため、スペースX社がアクセスへの地理的制限を課したことで障害が発生した可能性があると見られている。
スペースXあるいはマスク氏は、ウクライナ軍には衛星を使わせたいが、ロシア軍には使わせたくないため、ロシア支配地域など一部地域からのアクセスを制限したことで、障害が発生したとの見方が強いようだ。
12日には複数の報道機関が、通信が回復したとの記事を配信している。
戦況への絶大な影響
最前線にいる兵士たちにとって通信が途絶えた状態は、目や耳を奪われた状態と同じだろう。
この数週間の通信障害は、スターリンクがウクライナとロシアの戦況に絶大な影響を及ぼしうることをあらためて実感させた。
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