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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第180回

ビットコインを法定通貨にした、エルサルバドルの暗雲

2022年05月23日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 世界で初めてビットコインを法定通貨にした、中米のエルサルバドルが揺れている。

 仮想通貨価格が急落する中で、2022年5月16日の米ウォール・ストリート・ジャーナルなど各国のメディアが、同国経済への深刻な影響を報じている。

 法定通貨としてビットコインを流通させるため、エルサルバドル政府は大量のビットコインを保有している。

 同国が保有する1億米ドル(約127億円)相当のビットコインの価値が3分の2に落ち込み、同国の国債がデフォルト(債務不履行)となる可能性が高まっている。

2021年9月に法定通貨化

  エルサルバドルは2021年9月にビットコインを法定通貨にし、ビットコインと仮想通貨が法定通貨として併存することになった。

 「奇策」とも評されるビットコイン法定通貨化の背景には、海外に出稼ぎに出ている人が多い同国経済の構造がある。

 エルサルバドルのGDP(国内総生産)の約18%を、海外からの送金が占め、全世帯の3分の1が海外からの送金を受けている。

 このため、送金にほとんどコストがかからないビットコインを法定通貨とし、送金事業者に支払う人たちの手数料負担を削減し、国内経済を活性化する――。

 エルサルバドル政府は当初、こんなシナリオを描いていたようだ。

価格下落で損失膨らむ

 価格の変動が激しい仮想通貨の法定通貨化には、当初から懸念する声が多数出ていた。

 5月13日のブルームバーグは、エルサルバドル政府が発行する国債の利払いにも大きな影響が出ていると報じている。

 エルサルバドル政府は2021年9月に1億500万米ドル相当のビットコインを購入したが、その後仮想通貨の価格は45%下落した。

 法定通貨化から約9ヵ月で、保有するビットコインの価値は半分ほどに値下がりしたことになる。

 ビットコイン価格の下落による損失は4000万米ドル程度と試算されており、6月15日に予定されている次回の国債の利払いに必要な額を上回るという。

 エルサルバドル政府の支払い能力については、格付け機関も厳しい見方を示している。

 アメリカの大手格付け機関ムーディーズは5月4日付けで、エルサルバドルの格付けを2段階引き下げた。

 同社の公表資料は、今後、エルサルバドルの債務の再編やデフォルト(債務不履行)が発生する確率が高まっていると指摘する。

 そのうえで、同社は「投資家が大きな損失を被るというムーディーズの予測を織り込んだ」と厳しい見方を示した。

 IMF(国際通貨基金)は1月25日に、エルサルバドル政府に対して、ビットコインを法定通貨から除外するよう促した。

 「暗号通貨を法定通貨として採用することは、金融やマーケットの整合性、金融の安定性、消費者保護に大きなリスクを伴う」と指摘している。

大統領は強気を維持

 国外からは法定通貨化の廃止を求める圧力が高まっているが、ナジブ・ブケレ大統領は反対にビットコインを買い増した。

 大統領は日本時間の5月10日に500BTCを購入したと、Twitterで明らかにした。購入時の価格は約1550万米ドル(約19億円)相当で、CNBCは、同国がビットコインを法定通貨化した2021年9月以降で、最大の調達規模だと報じている。

 この5月10日時点で、同国が保有するビットコインは2301BTCで、同日のレートで日本円に換算すると約98億円に相当する。

 この動きについてブケレ大統領は、価格下落時を狙って買う「押し目買い」(buy the dip)とツイートした。

 大統領のツイートは価格が上昇に転じることを期待する内容と読めるが、国の財政としてはより高いリスクを背負うことになったとも言える。

 直近数ヵ月間のビットコインの値動き、エルサルバドル政府やIMFなどの動きからは、仮想通貨を法定通貨とする政策のリスクの高さが浮かぶ。

送金全体の1.63%がビットコイン

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