日本でも多くの人に知られているSIMフリースマートフォンの「ZenFone」。カメラ特化型や大容量バッテリー搭載モデルなど多数のバリエーションを誇る同シリーズですが、その登場までの道はひと筋縄ではいかないものでした。
PCメーカーならではのスマートフォン開発の道のりをたどっていきましょう。
ネットブックの影に隠れたASUSのWindows Mobile機
1990年代からPC用のマザーボードを送り続け、その後ノートPCを始めとするさまざまなPC製品メーカーへと成長したASUS。同社がスマートフォンに参入したのは2006年のことでした。
その前年に同社初となる携帯電話を発表し、翌年はストレートタイプから折りたたみ型まで複数の製品を展開しました。
一方、高機能端末として発表されたのがOSにWindows Mobileを採用した「P505」でした。ディスプレーは2.8型で、フリップ式の10キーを備えており、フリップを閉じれば携帯電話のようにも使える製品でした。通信方式はまだ2G(GSM)のみで、高速な通信を行なうにはWi-Fiを必要とした製品でした。
2007年にはBlackBerryスタイルでQWERTYキーボードを備えた「M530w」を発売しましたが、このころのASUSのスマートフォンは10キーを搭載した製品が多く、片手で持てる携帯電話スタイルで利用できる製品にラインアップが偏っていました。
これは当時Windows Phoneスマートフォンの最大手だったHTCの製品と差別化するために、携帯電話としても使えることを製品の特長としていたのかもしれません。
しかし、当時のスマートフォン市場はSymbian OSが圧倒的に強く、Windows MobileとBlackBerryのシェアは半分以下。
Windws Mobile搭載スマートフォンは、OutlookやOfficeアプリとの連携もできましたが、ハードウェアスペックからすると快適に使えるという状況ではなく、むしろ、小型のノートPCを持ち運んだほうが、仕事ははかどったかもしれません。
Windws MobileはPCメーカー各社から製品が次々に登場しましたが、ビジネス用途以外にはなかなか広がりを見せず、Symbianの牙城を崩すまでには至らなかったのです。
また、Windows Mobile製品の中でも、毎月のように新製品を投入するHTCの勢いの前に、PCメーカー各社は存在感をなかなか高めることはできませんでした。
そうこうしているうちに2007年秋にiPhoneが登場。スマートフォン市場のパワーバランスが一気に変わっていきます。
それと前後するように、ASUSはPC市場でネットブック「Eee PC」を発売しました。199ドルという低価格、小型軽量で持ち運びやすく、ウェブブラウジングだけではなく、Windows PCとしても使えるネットブックはヒット商品となり、社会的ブームも引き起こしたのです。
販売数が伸びずコストもかかるスマートフォンよりも、ネットブックにリソースを特化したほうがASUSとしては得策だったのでしょう。ASUSのWindows Mobileスマートフォンは、2009年の「P835」が最後の製品となります。
しかし、ASUSはスマートフォンを完全に諦めたわけではありませんでした。
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