「AIがAIを改善する」技術開発へ――RSIの現在地と、業務完結型AIエージェントの仕組み
東京大学発AIベンチャーの株式会社ELYZA(イライザ)は10月2日、都内で記者発表会を開催し、AIが自らの性能を改善する「RSI(再帰的自己改善)」をテーマに、専門の研究組織「ELYZA RSI Research」の設立と初期成果を発表した。また、この技術を活用した新しい音声AIエージェント事業の立ち上げも明らかにした。
近年の生成AI開発の加熱ぶりから、文章要約や単純な質問応答といったタスクでは各社でAI性能に差がつきにくい傾向にある。そのため、現在のAI研究の最前線は、複雑な業務の自動化や、AI開発のプロセスを効率化するアプローチへとシフトしている。同社が今回発表した取り組みも、世界的な潮流に乗るものだ。
RSI(再帰的自己改善)とは何か?「AIが自分を育てる」仕組み
今回発表の中心となった「RSI:Recursive Self-Improvement」とは、AIが自らの弱点を見つけ、自分自身のプログラムや指示設定を書き換えて性能を高めていく仕組みのことだ。
同社は海外の最新論文などを参考に、AI開発プロセスの進化を4つのレベルに整理する。初期段階の開発スタイルでは、人間がデータの準備やコード修正を手作業で行ってきた(Human-Only)。さらに開発のAI化が進むと、AIが提示した改善案を人間が判定する「Human-in-the-loop」へ、個々の作業はAIに委ねて人間は成果物のみを判断する「Human-on-the-loop」へと移行する。そして最終的には、人間が目的と制約を設定するだけでAIが自主的に改善を重ねる「Closed loop」へ至ると定義した。
同社が国内でこうした「AIによるAI開発」の推進を求める背景には、海外主要企業との開発スピードの差がある。海外では開発プロセスへのAI導入が進み、新モデルのリリース頻度が高くなっている。将来的な海外モデルの利用制限リスクも懸念される中、国内においても国産AIの開発にとどまらず、開発スピードそのものを引き上げる技術が不可欠だと同社は強調する。
「ELYZA RSI Research」が公開した3つの初期成果
今回新設された「ELYZA RSI Research」は、これまで人間が担ってきたAIの研究開発プロセスの一部をAIエージェントに代替させ、「AIによるAI開発」の高度化や安全性を専門に研究する新組織だ。同組織はKDDIグループの大規模な計算基盤(GPU)を活用し、RSIに至る前段階の要素技術として以下の3つの成果を公開した。
まず1つ目は、モデルの学習から評価に至る一連の工程の標準化だ。開発基盤を整備し、人間が介入する作業をわずか1〜2日程度に圧縮して学習を開始できる体制を構築したという。実際にこの基盤を用いて高度な推論能力を持つ国産モデルを開発し、商用利用可能な形で一般公開している。
2つ目は、評価プロセスの自動化だ。AIの精度を向上させるには実務に即したテストが欠かせない。そこで、従来の最終結果の成否だけでなく、業務手順の選択やツールの使い方といった、対応プロセス全体の正しさを段階的に判定する評価基準を新設した。この評価プログラム自体も、AIを活用して大部分を自動生成しているという。
3つ目は、制御システムの自律改善だ。AIが自らの失敗事例を分析し、周囲の制御プログラムや指示設定を試行錯誤しながら微修正していく仕組みを開発。実証実験では、業務の完結率を従来の34.3%から52.9%へ引き上げただけでなく、処理に伴う計算コストを67%削減することにも成功したという。
安全性の確保と今後の展開、新事業「ELYZA Voice Agent」
同社はこれらの研究成果を集約し、特定業界の業務に特化したAIエージェント事業も展開する。その第一弾が、音声対話AIエージェント「ELYZA Voice Agent」だ。
「ELYZA Voice Agent」は、従来の電話自動応答システムのような会話や案内を超えて、音声対話を通じた本人確認から、契約変更の受付、データベースの書き換えまで、業務を一貫するという。
対応結果をもとにAIの動作を自動で微修正する仕組みも組み込まれており、使うほど精度が向上する設計が狙いだ。今後はコンタクトセンターをはじめ、医療や製造などさまざまな専門領域へ展開していく方針だ。
AIが自ら能力を高めていく技術に対しては、予期せぬ挙動や悪用リスクに対する懸念もある。同社では、実際の業務運用においては人間が判定や運用に関わる安全設計を前提としながら、研究開発の段階では隔離されたテスト環境を活用することで、安全性と開発スピードの両立を図る。
今後はデジタル空間でのデータ処理にとどまらず、カメラ画像や音声、ロボット制御と連携させた、現実世界で動く「フィジカルAI」領域の研究開発も進める方針だ。
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