新品建材が捨てられる「建築資材ロス」をゼロへ。余剰建材を回収し、次の使い手へつなぐHUB&STOCK
【第2回「CSUP」最優秀賞】HUB&STOCK株式会社 代表取締役社長 豊田 訓平氏インタビュー
提供: CSUP/埼玉県
この記事は、第3回埼玉県サーキュラーエコノミースタートアップビジネスプランコンテスト「CSUP」公式サイトに掲載されている記事の転載です。
埼玉県では、資源の循環利用と県内産業の成長を両立させるため、2024年度から「埼玉県サーキュラーエコノミースタートアップビジネスプランコンテスト(CSUP)」を開催している。第1回では石膏ボードの水平リサイクルや使用済み紙おむつの再生、木製パレット・醤油粕のアップサイクルなどが選出された。第2回では建築資材ロスや空き家問題、食品ロスへと対象課題が広がっている。
この第2回CSUPで最優秀賞を受賞したのが、HUB&STOCK株式会社だ。同社が取り組むのは、一度も使われていない新品の建築資材が捨てられる「建築資材ロス」の削減。建築業界で余剰となった建材を買い取り・引き取り、必要とする企業や個人へ再販売することで、廃棄されるはずだった資材を再び市場へ戻すエコシステムを構築している。
なぜ、まだ十分に使える新品の建材が捨てられてしまうのか。一度市場から外れた資材を再び巡らせるには何が必要なのか。同社代表の豊田訓平氏に、創業の原体験からCSUP受賞後の手応え、埼玉を起点に目指す資源循環の未来像について聞いた。
豊田訓平氏。1992年千葉県生まれ。一級建築士。大手ゼネコンの設計部で意匠設計・構造設計を経験した後、店舗デザイン事務所で営業、設計、施工管理まで一連の業務に携わる。その後、社会課題解決型ビジネスを手掛ける株式会社ボーダレス・ジャパンを経て、2021年4月にHUB&STOCK株式会社を設立
「廃棄したい人はいない」のに、新品の建材が捨てられる
建設現場で余剰資材が生まれる背景には、工事を絶対に止められない業界特有の商慣習がある。
「『現場で材料が足りず工事が終わりませんでした』は絶対に許されません。そのため、現場や仕入れ先は安全を見込んで多めに在庫を抱えます」と豊田氏は明かす。
さらに、商品の廃番や仕様変更、特注品・発注ロットの余りなど、余剰が発生する要因は多岐にわたる。誰かが使い切れれば問題はないが、これまでは余った資材を広域かつ継続的に再流通させる仕組みが乏しかった。
「廃棄したい人は誰もいないのに、捨てるしかない状態でした。しかし、余った資材を見ても、物理的な品質には何の問題もなく正直使えるものばかりです」
新品であっても、品番が定番外や廃番品であると従来の流通ルートには戻しにくい。豊田氏がこの問題に気づいた背景には、ゼネコン勤務時代の経験がある。新入社員として設計部でデザインを担当後、構造研究所へ異動し、デザインとエンジニアリングの双方から建築を見てきた。
「会社の規模や現場の大小ではなく、建築業界全体の構造的な課題なのだと痛感しました。これほど大きな産業なら誰かが解決に挑んでいるだろうと調べましたが、新品の余剰建材に特化し、回収・保管・再販売まで一貫して行う事業者は見当たりませんでした」
この課題を解決するため、豊田氏はコロナ禍のさなかに起業し、HUB&STOCKを創業した。
余剰建材の流通を成立させる、回収・保管・販売の一体モデル
同社の事業は、建築業界で余剰となった建材を買い取り・引き取り、保管した上で、次の使い手へ販売する一連の仕組みで成り立っている。
「入口(仕入れ)と出口(販売)の両方を抑えなければ成立しないビジネスです。どこに何がどれだけ余っているかわからない中で大量に集め続け、同時に大量に売り続ける。地道にバランスを保ちながらスケールさせる必要があります」
仕入れ面では建材メーカーとの提携によって安定した入荷量を確保し、販売面では自社で在庫リスクを負う覚悟を決めた。加えて、建材はそれだけでは成り立たない「半製品」という難しさがある。買えばすぐに価値を生むものではなく、床や壁に正しく施工されて初めて価値を発揮する。
「図面が読める建築出身のスタッフが、必要量の試算や施工方法を案内します。さらに現在は、余剰建材を使った完成後の空間イメージをAIで可視化する仕組みの開発も進めています。デザインと技術のアドバイスでユーザーの不安を取り除くことが最大の強みです」
CSUPを機に、信用と事業連携が拡大
HUB&STOCKがCSUPに応募した契機は、第1回最優秀賞を受賞した株式会社GYXUSとの縁だった。建材や暮らしを考える一般社団法人ロングライフ・ラボを通じたつながりから「HUB&STOCKも出るべきだ」と背中を押されたという。
コンテストでは「『エシカルリノベーションシティ埼玉』の実現―建築資材ロス削減と資源循環文化の創造―」を掲げ、最優秀賞を受賞した。
受賞によって最も大きく変わったのは、周囲からの信頼だったと豊田氏は話す。
「行政や金融機関からの信頼を得やすくなりました。以前は『なぜこの事業に社会的意義があるのか』をゼロから説明していましたが、現在は『埼玉県で評価された取り組み』として認知していただけるため、話がスムーズに進みます」
コンテスト参加のメリットは、受賞そのものだけではない。応募を機に、県内の補助金制度や支援体制、連携候補となる企業の情報が一気に集まるようになった。
「限られた経営資源の中では、必要性を感じていても中長期の課題として先送りせざるを得ないことがあります。CSUPでは担当者が事業を深く理解し、必要なパートナーや助成制度につないでくれました」
その流れの中で、HUB&STOCKは本社を東京都新宿区から埼玉県へ移転した。もともと埼玉県内には顧客が多く、回収拠点や倉庫もあった。移転の時期が重なったこともあり、「東京に置き続けるより、事業との相性がよい埼玉に根差した方がいい」と判断したという。
「移転によって地域金融機関との関係構築や、行政・公社の支援情報へのアクセスが広がりました。自分たちだけでは見落としていた支援策の存在も大きいです」
埼玉で強固な循環モデルを確立した先には、全国展開を見据えている。現在でも商品は北海道から沖縄まで配送可能であり、提携メーカーの拠点も全国に存在する。
「まずは埼玉県をサーキュラーエコノミーのトップランナーにして、ここで成功モデルを作った上で他地域へ展開していきます」
増加する多品種在庫の管理を、人力からシステムへ
事業拡大に伴い、新たな課題も見えてきた。HUB&STOCKでは2026年9月時点で累計650トン以上の余剰建材を回収・循環してきた。物流網が整い回収量が増加したことで、次の課題は「使い手(需要)をさらに増やすこと」へとシフトしている。
余剰建材は少量多品種であり、同じ商品が継続して入るとは限らない。常に変動する「何が、どれだけあるのか」という情報を正確に把握し、購入者へ伝える必要がある。同社では、増加する少量多品種の在庫をこれまで人手を中心に管理してきた。
「少量多品種の在庫情報を、より正確かつ迅速に届けることが次の課題です」
そこで現在、在庫情報をより正確かつ迅速に反映できる管理・販売基盤を整備している。
このシステム化もCSUPでの学びが起点となっている。審査員から「在庫管理を高度化し、より選びやすくするべきだ」とアドバイスを受け、埼玉県の補助金や技術支援を活用して導入を決めた。
目指すのは、単なる在庫情報の提供にとどまらず、設計者や利用者が余剰建材の特徴や活用の可能性を直感的に理解し、選びやすくするサービスだ。実際に、余剰材だからこそ生まれた設計事例もあるという。
「異なる色柄の余剰材を組み合わせた、新しい設計事例も生まれています」
均一な工業製品を並べる通常の施工とは異なり、バラバラな余剰材を組み合わせることで「世界にひとつだけの空間」を創出できる。余剰材の活用は、環境配慮やコスト削減を超えて、新しいデザイン手法として評価され始めている。
ホームセンターとの連携など販売チャネルも広がっており、利用者のニーズをサービス改善に生かす取り組みも進めている。
さらに、建材をストックすることには、資源循環とは別の価値も見えてきた。豪雨災害の後には、被災した地域から床材を求める注文が入った。また、資材の供給や物流が滞った際に、HUB&STOCKが保有していた在庫から建材を提供した実績がある。
「建材をストックすることは、平時の資源循環に加え、有事の資材供給にもつながる可能性があります」
再利用からマテリアルリサイクルまで、建材を使い切る
HUB&STOCKが描く未来のロードマップには、大きな2つの軸がある。
ひとつは、現在行っている余剰建材の再利用(リユース)自体のスケールアップだ。「建築資材ロスの削減はまだ始まったばかり。まずは量を圧倒的に増やしていきます」と豊田氏は意気込む。回収ネットワークを広げると同時に、建設・不動産業界や一般ユーザーへ「余剰材を活用したエシカルリノベーション」という選択肢を定着させていくのが目標だ。
もうひとつは、再利用が困難な建材の「マテリアルリサイクル」領域への挑戦だ。建材は複数素材が複合されているものが多く、分離・選別が難しいため、再資源化のハードルが高い。
「どれだけ流通網を広げても、100%使い切ることは困難です。将来的には、再利用が難しい建材の再資源化にも挑戦したい。資源をひとつも取りこぼさないサーキュラーエコノミーのハブを目指します」
最後に豊田氏は、本取り組みに関わるあらゆるプレイヤーへこう呼びかける。
「在庫のお困りごとを抱える建材メーカー様はもちろん、自社オフィスや店舗の改修、アセットの運用を計画されている企業様は、ぜひ『エシカルリノベーション』という選択肢をご検討ください。私たちと一緒に建築業界の新しい当たり前を作っていきましょう」
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