人を減らさず、売上と給与を増やす。10pct.が地方旅館から観光地をつくる方法
宿の個性を残しながら、経営と地域観光を変える運営モデルとは
10pct.(テンパーセント)株式会社の代表取締役CEO、中堀友督氏は、自社を「ソフトウェアとAIに強い総合リゾート運営企業」だと説明する。同社はホテル向けシステムを販売するだけのSaaS企業ではない。ファンドや不動産所有者からホテルや旅館の経営を受託し、採用、価格設定、マーケティング、現場運営まで担う。
現在、京都府亀岡市の温泉旅館をはじめ、白馬、群馬県みなかみ町、佐渡など、全国15施設で運営や開発を進めている。現場に入り、日々の細かな業務を洗い出し、AIやソフトウェアで効率化する。一方、効率化で生まれた利益は、従業員の給与やサービス品質の向上に再投資するという。
10pct.が目指しているのは、宿泊施設を増やすことよりも、観光地を増やすこと。地方の宿の裏側を変えることで、地域全体を再び稼げる場所にできるのか。
ホテル向けシステムを売るより、自分たちで運営する
10pct.は2023年7月に創業した。星野リゾートの投資部門で大手外資ホテルチェーンの物件などの取得・経営に携わったのち、アジアの不動産大手の日本法人に勤めていた中堀氏が説明する事業構造は、宿の所有者から経営を受託し、売上や利益の一部を運営フィーとして受け取るモデルだ。
「私たちは、ソフトウェア、AI、テクノロジーを強みに、施設運営まで一体で手がける会社です。ファンドなどが所有するホテル・旅館を丸ごと経営受託し、日々運営しています」
ホテル・旅館業界では、予約管理、収益予測、シフト作成、顧客管理など、さまざまな業務向けのシステムがすでに提供されている。にもかかわらず、地方の独立系ホテルや旅館ではDXによる業務改善が思うように進んでいない。
中堀氏は、その原因をシステムの機能不足とは捉えていない。
「地方の独立系ホテルや旅館では、日々の運営に追われ、システムを導入して業務設計まで見直すための人材や時間を確保しにくいという課題があります。高機能なシステムを導入しても、現場に定着するまで伴走する体制がなければ、十分に活用されないケースも少なくありません」
10pct.は、外部からシステムを提供するだけの立場を取らず、運営受託やM&Aを通じて経営に入り、自分たちで業務を設計し直す。ソフトウェアを売って終わり、コンサルティングで終わりではなく、施設全体の収益改善によって投資を回収するのが10pct.の事業モデルの特徴だ。
シフト作成から収益管理まで、現場の仕事をAIで変える
10pct.がAIを活用している業務の一例が、従業員のシフト作成だ。ホテルや旅館では、正社員、パート、アルバイトを含む多くの従業員が働く。多くの施設では、勤務可能な曜日や時間、休暇希望、持ち場ごとに必要な人数などを反映しながら、Excelやスプレッドシートでシフトを組んでいる。複雑な関数や表を扱う必要があり、急な欠勤や希望の変更が入るたびに、担当者が手作業で調整する負担も大きい。
10pct.では、従業員の希望や必要な条件を自然言語でAIに渡し、シフト案を作成できるようにしているという。
京都府亀岡市の温泉旅館では、曜日ごとの最低配置人数、スタッフの勤務可能日、連続勤務の上限、研修中のスタッフを単独配置しないといった現場固有の条件を反映したシフト作成ツールを開発。従来、約8時間かかっていたシフト作成を約2時間に短縮した。
「ランダム関数やVLOOKUPを使わなくても、現場の人が自然言語で条件を入れれば、AIがシフトを作ってくれる。そういったDXをシフト作成に限らずやり切っています」
もっとも、これら一つひとつの機能は、10pct.にしか開発できないものではない。10pct.の強みは、個別のAI技術よりも、それを実際のホテル・旅館運営に組み込み、現場の業務を継続的に変えていることにある。
効率化で生まれた利益を、従業員の給与に戻す理由
AIやソフトウェアによる効率化と聞くと、人員削減や人件費の圧縮を想像しやすい。10pct.は、そこで生まれた余力を従業員の待遇改善に回している。
同社が運営する京都府亀岡市の温泉旅館では、パートを含めて約80人が働く。中堀氏によれば、運営開始後の7カ月間で売上を約7000万円増やし、その増収分を人件費にも振り向けたという。
「もともとの人件費比率は16%だったんです。売上を上げて、その分を人件費に入れ、今は20%にしています」
人件費比率の数字だけを見れば効率が悪化したようにも映るが、売上を伸ばしたことで、施設全体の収益を確保しながら、従業員へ支払う金額も増やせるようになった。売上やサービスへの貢献を待遇に反映し、地域の宿泊業に根強い低賃金構造を変えることも、運営改善の一部、と中堀氏は話す。
背景には、宿の価値を最終的につくるのは「人」だという考えがある。
「AIで人の仕事を置き換えるのではなく、人にしかできない仕事に、フルに時間を使えるようにしたいのです」
予約の入力や集計、シフト作成、定型的な連絡といった業務は、AIやソフトウェアに任せる。そのぶん、従業員は顧客への対応に時間を使える。中堀氏が目指すのは、スタッフが顧客の好みや滞在目的を把握し、必要なことを先回りして提供できる施設だ。
例えば、ペットを連れてくる宿泊客に必要なものをあらかじめ用意する。タクシーも先回りして手配し、担当者が変わっても顧客情報は引き継ぐ。AIで日々の業務を効率化し、スタッフがこうした対応に時間を使えるようにする。サービスの質が上がれば、再訪や口コミにつながり、売上も伸びる。生まれた利益を、さらに人材やサービスへ戻していく。10pct.は、そんな循環を目指している。
予約システム「Be.」で、客が何にお金を払うかを知る
10pct.が開発する予約システム「Be.」も、こうした「きめ細かな対応」を支える仕組みのひとつだ。
従来の旅館予約では、「夕朝食付きプラン」「連泊プラン」など、施設側が用意した複数のプランから選ぶ方式が一般的だ。Be.では、客室の種類、風呂、食事、マッサージ、カラオケなどを個別に選び、利用者が自分の滞在を組み立てられる。例えば、1日目の夕食は外で食べ、2日目は旅館で食べる。朝食は一日だけ付ける。客室には露天風呂を付けるが、マッサージは頼まない。――といった具合だ。
施設側にとっては、この予約画面が顧客の行動データを集める仕組みにもなる。どの客室を見たか、和室と洋室のどちらで迷ったか、露天風呂を追加しようとしてどの動線でやめたのか。予約に至らなかった利用者の動きも蓄積される。
「予約した人だけでなく、予約をしなかった人のデータもたまります。この部屋にしようか、やっぱりやめたか、食事は何がよかったかというデータが取れます」
こうした情報を属性データと組み合わせることで、どのような顧客が、眺望、客室、風呂、食事のどこにお金を払うのかが見えてくる。
蓄積したデータは、個々の施設のマーケティングだけでなく、客室の改修や新規施設の開発にも利用できる。露天風呂を増やすべきか、洋室を増やすべきか、食事に投資すべきか。これまで経験や勘に頼りやすかった判断を、顧客の実際の選択をもとに考えられる。
現在の課題は、一つの施設で集めるデータ量よりも、地域をまたいだ比較データを増やすことだという。京都の利用者が白馬では何を選ぶのか。越後湯沢では、客室と食事のどちらにお金を払うのか。同じ顧客層の行動を地域ごとに比べられれば、ホテル・旅館開発の精度をさらに高められる。
Be.は、10pct.が運営する施設だけでなく、外部の宿泊施設にも提供している。システム利用料を得るためというよりも、さまざまな地域や施設からデータを集め、顧客が何に価値を感じるのかを広く把握するのが目的だという。
ホテルや旅館を増やすのではなく、観光地を増やす
10pct.は、京都府亀岡市の温泉旅館に加え、長野県白馬村、群馬県みなかみ町、新潟県佐渡市などで運営や開発を進めている。中堀氏が目指すのは、すでに観光客が集まる場所にホテル・旅館を増やすことではない。
「京都市中心部や東京の銀座にホテルを増やしても、オーバーツーリズムは解消しません。観光客が訪れる場所そのものを増やす必要があります。私たちは、ホテルや旅館をいっぱい増やしたいのではなく、観光地をいっぱい増やしたいのです」
京都では、嵐山のさらに奥にある亀岡へ宿泊客を呼び込む。徳島県鳴門市では、自治体の支援を受けながら、地域の宿泊施設へのシステム導入を進めている(参考)。
中堀氏は、10pct.の運営ノウハウを入れれば、地方のホテルや旅館の売上を1.25倍から1.5倍程度に伸ばせる余地があるとみる。顧客データをもとに客室改修や設備投資まで行えば、1.5倍から2倍程度を目指せる可能性もある。
「ただ、3倍、4倍、5倍になるかというと、宿泊施設単体では正直難しいと思っています。京都のように、観光地として世界的な認知や魅力を持たないと、そこまでは伸びません」
全国には、古くから続く店、寺社、食文化、自然景観などの資源が残っている。ただ、それらが個別に存在するだけでは、旅行者が長く滞在し、地域内で消費する観光地にはなりにくい。宿泊施設の売上を改善するだけでなく、飲食、体験、文化、自然、移動手段をつなぎ、地域全体を「面」として育てる必要がある。
地域を観光地として整えるには資金も要る。旅館や古民家の買収、建物の改修、新しい施設への投資にはまとまった費用がかかる。10pct.は地域金融機関との連携を進め、地域の観光資産へ資金が流れる仕組み作りにも取り組んでいる(参考)。
後継者がいない宿泊施設から、事業承継や売却について相談を受ける機会も増えているという。今後は、M&Aの支援も事業として強化する方針だ。
宿の名前や歴史を残し、運営品質をそろえる
総合リゾート運営企業となると、世界的にはマリオットやアマンなど、国内であれば中堀氏の古巣でもある星野リゾートがあるが、施設の名称や歴史は、10pct.のブランドに統一しないという。建物、郷土料理、地域とのつながり、著名人との関係など、それぞれの宿が持つ物語を残す。そのうえで、接客や運営には10pct.として共通の水準を設ける。
中堀氏は、目指す形を「produced by 10pct.」ではなく、「operated by 10pct.」だと表現する。宿の名前や個性は生かしながら、運営品質を10pct.が支える考え方だ。
ただ、中堀氏は、現在の技術的な先行性が長く続くとは考えていない。
「正直に言うと、あと5年は技術的な優位を感じています。ただ、5年後にどうなっているかは別ですね」
現在は専門家が担っているAIの利用やシステム開発も、数年後にはExcelのように多くの人が使えるようになるかもしれない。AIを使っていること自体は、いずれ差別化にならなくなる。
だからこそ、技術で先行できるうちに各地の宿泊施設へ入り、顧客データ、運営ノウハウ、人材、金融機関や自治体との関係を積み上げる。技術が一般化した後にも残るホテルや旅館の運営基盤を、今のうちにつくる考えだ。
こうした事業基盤を各地へ広げるため、10pct.はこのほど、シリーズAで総額約4億円を調達した。グローバル・ブレインをリード投資家に、GMO VenturePartners、既存投資家のデライト・ベンチャーズが参加。今後は宿泊施設の運営・経営に加え、経営DXプラットフォームの外部提供やM&A支援、自治体・DMO向けの観光プロモーションなどへと事業を広げていく計画だ。
地方の独立系ホテルや温泉旅館には、建物や料理、歴史があっても、財務、採用、マーケティング、システム開発を担う本部機能がない。10pct.はその裏側を引き受け、AIやソフトウェアで生まれた利益を人材やサービスへ戻していく。宿の経営を立て直し、周辺地域にも人とお金が流れる仕組みを各地につくることが目標だという。
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