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科学技術振興機構の広報誌「JSTnews」 第114回

【JSTnews7月号掲載】さきがける科学人/戦略的創造研究推進事業さきがけ「酵母のフェロモン認識の二面性と環境適応メカニズムの解明」

パンや酒、チョコづくりにも関わる微生物「酵母」の進化を追求

2026年07月27日 12時00分更新

文● 畑邊康浩

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清家泰介。九州工業大学 大学院情報工学研究院 准教授。京都府出身。2014年大阪市立大学大学院理学研究科生物地球系専攻後期博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、大阪大学大学院情報科学研究科助教などを経て、25年より現職。21~24年ACT-X研究者、24年よりさきがけ研究者。

Q1 研究者を目指したきっかけは?
A1 指導教員の「5年計画」に導かれて

 気付けば研究者になっていました。高校で生物を学んだのは1年時のみでしたが、教育実習で来た先生の話に惹(ひ)かれ、大学は生物学科に進みました。

 4年生ではあえて最も厳しいと評判の研究室を選びました。週6日、10時~19時がコアタイム。木曜は英語力向上のため会話は英語のみ、毎朝デスクに置かれた日本語の短文を英訳し、提出するのが日課でした。厳しくも面倒見の良い環境でした。

 そこで酵母研究と出合い、配属時のインタビューを基に研究テーマが決定。その後、指導教官から「5年計画」と書かれたA4用紙3枚の研究計画書を手渡されました。今思えば、博士課程進学までを含めた計画だったのかもしれません。修士課程では就職活動もしましたが、やり残した思いから博士課程へ進学し、「5年計画」が、自然と研究者への道に導いてくれたと感じています。

Q2 現在取り組んでいる研究は?
A2 野生酵母から探る多様性と進化

 分裂酵母をモデル生物として、有性生殖の進化や環境適応のメカニズムを研究しています。酵母にも性別があり、2種類の性がフェロモンを介して互いを認識し交配します。それぞれの細胞が分泌するフェロモンと、異性細胞の細胞膜にあってフェロモンに結合する受容体は「鍵」と「鍵穴」の関係にあり、フェロモンの構造が少しでも変わると結合できなくなります。私は学生時代、フェロモンと受容体の遺伝子を改変し、従来の酵母とは交配しない「新しい種」を人工的に創り出しました。

 酵母が互いを認識する仕組みは非常に厳密ですが、自然界で新たな種が生まれるには、異なる種と交配する「緩さ」も必要です。この二面性が環境適応や進化の鍵を握ると考え、フィールドワークにも力を入れています。ショウジョウバエが酵母を餌とする性質に着目し、国内各地でショウジョウバエを採集し、野生酵母の遺伝子を解析しています。ハエの腸内は部位によってpHが変化し、酵母が通過する際の環境変化がフェロモンの認識機構を緩め、多様な酵母が出合う「交配の場」になっていると考えています。

 これまでに2000株以上の野生酵母を採集し、一部の株について性質を可視化したカタログを作りました。沖縄では、高温耐性や特殊な糖を分解できる有望な新種の酵母を発見できました。酵母は私たちの暮らしに身近な微生物で、パンやお酒はもちろん、実はチョコレートの製造にも関わっています。それらを作る企業と、新たな酵母を用いた新商品の開発に向けた共同研究も始まっています。酵母の多様なポテンシャルを引き出し、社会に還元していくことも私の大きな目標です。

野生酵母の探索のため、ショウジョウバエを捕獲するトラップを設置している様子。

Q3 研究者を目指す人にメッセージを
A3 研究者は職業でなく「生き方」

 人生には進学や就職など、数多くの分岐点があります。どちらの道に進むべきか迷うことは誰にでもありますが、どちらを選んだとしても絶対の正解はありません。自分で決断し、選んだその道を正解にしていく姿勢が大切だと思っています。

 研究は失敗の連続ですが、それが本質だと思っていますから、あまり苦労とは感じていません。良い結果が出なくても、運が悪かっただけだと考えるようにしています。研究者とは、職業ではなく「生き方」だと思っています。「何かを明らかにしたい」という志がある限り、大学や研究機関に属していなくてもその人は研究者。生き方としての研究者を目指してほしいです。

ムーミンが好きで、北欧を訪れた際の1枚です。
©2026Muumimuseo/©MoominCharactersTM

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