前回に引き続きTSMCの発表から。今回は次世代のSoICに向けた取り組みの話となっているのだが、その前に連載810回の補足をしたい。
IEDMに続き、今年の2月16日からISSCC(International Solid-State Circuits Conference) 2025がサンフランシスコで開催された。もっとも本番は月曜の2月17日からで、初日の2月16日はフォーラムおよびチュートリアル・セッションのみの開催である。
TSMCのSRAMテストチップにおける欠陥密度を再計算
比較的順調なのがわかった
実は今年のISSCC、Plenary SessionsでPat Gelsinger氏の講演があるはずだったのが、CEO職辞任にともないインテルのNavid Shahriari氏(SVP, Foundry Technology Development)が代わりに講演を行なったりした。このISSCCのSession 29のテーマがSRAMで、TSMCとインテル、MediaTek、Synopsysの4社が5つの発表をしている。
TSMCは2件あり、1つは"29.5 A 3nm 3.6GHz Dual-Port SRAM with Backend-RC Optimization and a Far-End Write-Assist Scheme"というもの。もう1つが"29.1 A 38.1Mb/mm2 SRAM in a 2nm-CMOS-Nanosheet Technology for High-Density and Energy-Efficient Compute"となっている。
この29.1で、TSMCのSRAMテストチップのイメージが公開された。連載810回ではSRAMのテストチップの様子がわからなかったので適当に推定したのだが、もう少し厳密に欠陥密度を計算できそうである。
下の画像は上の画像のテストチップを拡大したものだ。ここで黄色で示した部分が実際のSRAMセルの部分であり、塗りつぶしていないのは縦横の配線となる。
Bit cell size(1bit分のSRAMセルの面積)は0.021μm2となっているので、これを256Mbit分集積した面積(つまり上の画像の黄色の面積の合計)は5.673mm2ほどになる。一方でテストチップ全体の大きさは4.24×4.70mmで19.95mm2ほどと推定される。
この寸法を元に欠陥密度を推定してみた。SemiAnalysis Die Yield Calculatorで試算すると下表になる。
| 欠陥密度と歩留まりの関係 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 欠陥密度 | 歩留まり | |||||
| 0.1 | 98.03% | |||||
| 0.2 | 96.11% | |||||
| 0.3 | 94.22% | |||||
| 0.4 | 92.39% | |||||
| 0.5 | 90.60% | |||||
| 0.6 | 88.84% | |||||
下のスライドによれば、Lot #1~#3の3つの製造ロットにおける平均の歩留まりは93%、92%、89%ということだから、Lot #1は欠陥密度が0.4個弱/cm2、#2は0.4個強/cm2、#3は0.6個弱/cm2ということになる。多少まだバラつきは見られるが、おおむね0.4個/cm2前後の欠陥密度をすでに実現していると考えて良さそうだ。したがってTSMCのN2はやはり順調そうである、と言えるだろう。
次世代のSoICではおおむね2倍の帯域をほぼ同等の電力で利用できる
さて今回のお題は「HPCアプリケーション向けとなる次世代のSoIC」である。HPCと言っても、実際にはAIだったりするのだが、特に2018年あたりから言語モデルの利用によって急速に性能への要求が高まり、この結果必要となるトランジスタの数も増える。
といっても、チップとして製造するためにはReticle Limitというものがあって、どうがんばっても800mm2を超えるようなチップは製造できない(し、このサイズでは歩留まりが相当悪化する)から、結局複数チップに分割して間をつなぐことになる。
TSMCの場合、CoWoS、InFo、SoICという3種類のチップレット接続のテクノロジーを提供しているが、ここのテーマは次世代のSoICである。2nmプロセスの説明のスライドの中にもこれに言及したものがあるが、次世代のSoICではおおむね2倍の帯域をほぼ同等の電力で利用できるようになるとする。
9μm→4.5μmでは密度は4倍になりそうなものだが、1.83倍ということは9μm→6.65μmなのか、それとも6.09μm→4.5μmなのか、あるいは縦方向と横方向でピッチの縮小具合が異なるのか、いろいろ謎である
実際にTSMCのN3でテストチップを製造する際の工程が下の画像である。当然であるが、SoICを構築する際には接続面のPlanarization(平面化)の工程が必要であり、これには後工程の平坦化レベルでは足りず、前工程の装置を利用しての平坦化が必要となる事を示している。OSAT(後工程を担当する企業)のソリューションに、こうした3D積層が出てこない理由の1つがこれである。
ずいぶんTSVの数が多い(7億6000万個)とは思うが、テストチップの大きさは25×33.3mmとかなり大きなものなので、9μmピッチで製造したとしてもはるかに多数のTSVを積層可能である。テスト用だからこのくらいの数があっても不思議ではない
上の画像の右中央にあるのがPnP & Bondingである。PnPはPick & Placeの略で、2枚の向かい合わせになったダイの位置を合わせて結合するというステップであるが、この際に正しく位置合わせをして接続できているかを確認するための検査手段がCSAM(Confocal Scanning Acoustic Microscopy)である。
超音波顕微鏡の一種であるが、2次元走査を行なうことが特徴である。破壊検査はしようがないので、超音波顕微鏡を使って正しく重なり合っていることを確認するというものだ。ちなみに上の画像では、ダイ同士の接続というよりはWoW(Wafar on Wafer)の形で2種類のダイ(を搭載したウェハー)を重ね、後で切り出すような構造に見えなくもない。
上の画像ではSoICプロセスに入る前にCPテスト(Chip Probing、あるいはCircuit Probingの意味だが、おそらく前者だろう)を行なっているので、ダイシング(ウェハーからダイを切り出す)を実行した後かと思ったのだが、CPテストはダイシング前に行なうことも不可能ではないので、WoWの場合には切り出さずにそのままSoICプロセスをかける形になるのかもしれない。

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