ガートナージャパンは、2024年5月21日から23日に、「ガートナー データ&アナリティクス サミット2024」を開催。「共に価値を生み出す時代:データはAIに、そして集団的知性へ」をテーマに、データ活用に関する講演が展開された。
本記事では、企業向け資材販売ECサイト「モノタロウ」を運営するMonotaROが、データドリブンカンパニーに至るまでの道筋を語った講演「データを活用するために必要なアクションとは」のレポートをお届けする。登壇したのは、同社のプラットフォームエンジニアリング部門長である香川和哉氏だ。
モノタロウのデータドリブンカンパニーまでの道のり
モノタロウは、企業の現場向けに間接資材を販売するECサイトだ。製造業や建設業向けからはじまり、取扱商品を拡大、今では2300万点超の商品をあつかう。
同サイトを運営するMonotaROは、コールセンターから商品採用、物流、マーケティング、ITまでを自社で開発・運用するフルスタックECカンパニーであり、データに基づくビジネスを全社的に推進しているデータドリブンカンパニーでもある。
MonotaROでは現在、全18部門と関連会社やアルバイトを含む1000人以上が、日々の業務からレポーティングや分析、ML(機械学習)による最適化や予測、大規模データ処理まで、さまざまなユースケースでデータを活用している。
仕組み的には、基幹システムやECサイトの受発注や顧客データ、CDNやウェブサーバーのログなどのデータソースを、GoogleのフルマネージドなクラウドDWHであるBigQueryに集約、データを構造化して、各分析ツールを用いている。
MonotaROにおける月間のクエリ実行数は500万以上。BIツールであるGoogleのLookerやLooker Studioも、月約50万回利用されるなど、まさに全社的かつ日常的にデータ活用を進めている。
同社のデータ活用は2010年以前、一部のマーケターやアナリストが基幹系システムにあるデータを活用するところからはじまった。
2010年頃には、基幹システム、ECサイトからデータを集約する販促用のDWHを構築。一部の社員レベルから一部の部門へデータ活用を広げた。
2016年頃には、クラウドDWHであるBigQueryを導入。これにより、全部門のSQLが書ける社員がデータ活用できるようになった。さらに2018年からは、BigQueryの社内利用を積極的にスケーリングしていく。
しかし「その一方で、各部門でデータのサイロ化が発生し、指標があわず、コミュニケーションがとりづらいという問題が発生した」と香川氏。この課題を解消すべく、2020年頃には、データ管理ソリューションを導入。全部門の多くの社員がより簡単にデータ活用できるよう、BIツールのLookerも採用した。
そして現在、全部門の社員が簡単かつ高度にデータ活用できるよう、データアナリティクスという観点から、基幹系システムやECサイトの再設計を進めているという。
データ活用の社内展開は、まず“縦に伸ばす”
絶えずデータ基盤の整備を続けてきたMonotaROであるが、データ活用を社内展開していくために、どのような施策を展開してきたのだろうか。香川氏は、社内展開の秘訣を「縦に伸ばして、横に広げる」ことだと語る。
この「縦に伸ばす」とは、単一チームなど局所的に能力を向上させること、「横に広げる」はそれを組織全体に拡大していくことだ。香川氏は「組織がスキルを展開したり、新たなケイパビリティを獲得する際の必然パターン」と説明する。
前述したデータ基盤の変遷において、販促用DWHを構築し、マーケティング部門の一部メンバーがデータ活用をしていた時期が「縦に伸ばす」にあたる。ここでは基幹システムやECサイトのデータを、キャンペーンマネジメントシステムやML/BI用データベースに同期し、SQLでの分析やMLでの予測、BIレポート作成などにつなげていた。
香川氏は、データ活用を「縦に伸ばす」段階でのポイントを2つ挙げる。
ひとつは、エンジニアや業務スペシャリスト、アナリストでチームを組成して、そのチームでデータ活用を完結させることだ。「他社からもデータ活用の相談をいただくことがあるが、『データを管理する人』と『活用している人』の部門が分かれていることが多い。その体制では、コミュニケーションのハードルが上がり、データ活用の改善が遅くなってしまう」と香川氏。
2つ目のポイントは、一連の取り組みを局所的に取り組むことで、成功体験を得やすくすることだ。同社のマーケティング部門が挑戦していた「MLで購買行動を予測して、それに基づき販促する」という取り組みは、2010年当時はあまりみられなかったという。分析からの業務改善、分析オペレーション、システムの高度化まで一連の取り組みを、局所的に実践することで、深い学びにつながったという。
縦に伸ばした人やスキルを、次は“横に広げる”
局所的にチームや業務の能力を向上させたあとは、その人やスキルを「横に広げて」いく。
同社では、2016年にBigQueryを導入した段階から「横に広げる」施策を開始した。成功体験を積んだマーケティング部門の人材を別部門に異動させ、データ分析の能力を全社的に展開した。BigQueryの導入は、それに伴って全社横断的なデータ基盤が必要になったためだ。
「横に広げる」においては、業務知識があり、他部門とも関係性を持つ、社歴が長いアナリストを他部門に異動させたことがポイントだという。これにより、他部門にとっては新たな取り組みとなるデータ活用もスムーズに展開できている。「(社外から)データ活用人材を採用しても活躍できない場合は、人間関係の方が問題だったりする」と香川氏。
もうひとつのポイントは、マネージャーも一緒に異動させ、異動先のメンバーに「データによる業務報告」を要求することで、データ活用の機会を創出したことだ。香川氏は、「マネージャーが『仕事の成果を証明するために、データを持ってきてください』と要求できるかどうか。これがないと、どういったアウトプットを出せば良いか分からず、業務上の必要性も薄くなる」と強調する。
“横に広げる”ためのシステムやサポート体制の整備
横に広げるためには、人やスキルが充分に発揮できるシステムやサポート体制の充実も不可欠だ。
MonotaROでは、2016年から2018年にかけて、CDC(Change Data Capture)の技術を用いたデータ同期システムを内製。主要なデータベースをニアリアルタイムで同期する仕組みを構築、データの網羅率を上げてデータ同期依頼が発生しないようにした。
全部門がデータ活用できる状態にすると共に、2018年には、サポート体制も構築。社内チャットでのヘルプデスクチャネルを用意したほか、ウェブフォームでのサポート依頼窓口も設置。さらに、クエリジョブの定期実行のためのツールを提供し、BigQueryの説明会やLooker Studioの勉強会も開催した。
香川氏は、特に、スキル向上の機会や仕組みを幅広く用意することで、データ活用のセルフサービス化を促進することに注力したという。「業務データを集計することはそこまで難しくない。それを各社員ができるようになることで、単一部門への負荷や責任が軽減される」と説明した。
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