10周年を迎えたBox Japan Box AIをテコに利用拡大へ
「Box AI」は非構造化データの活用をうながし、言語の壁を越えられる
2023年05月22日 09時00分更新
Box Japanは2023年5月18日、日本での事業開始から10周年を迎えたことを受け、最近のビジネス状況や今後の事業戦略についての記者説明会を開催した。米Box 共同創業者 兼 CEOのアーロン・レヴィ(Aaron Levie)氏は、改めてBoxのビジネス価値について説明した。
目標はIT環境のシンプル化
オンラインで参加したレビィ氏は、IT環境をシンプル化するという目的を披露。これを実現するために、特に3つの部分に注力しているという。1つ目はコンテンツの保護で、データセキュリティとコンプライアンスの担保。2つ目は会社の生産性を向上させることで、シームレスにコラボレーションやツールのシェアできるようにする。そして、3つ目が会社の中のすべてのアプリケーションを1つのプラットフォーム上で使えるようにすることだという。
「コンテンツは企業作業の根幹に関わるものになっているが、それがいろいろなテクノロジーの中にバラバラに細分化された形で存在しているという問題がある。SharePoint、DocuSign、ストレージ、ファイルシェアリングなど、いろいろなものの中にサイロ化した形で存在している。この問題を解決するために私たちが提供しているのがコンテンツクラウドだ」
「実際にデータが取り込まれたときからセキュリティをかけて保護し、分類し、コラボレーションして、電子でサインするといったデータにおけるすべてのライフサイクルをこれでカバーすることができ、単一のセキュアなプラットフォームですべてのデータを取り扱うことを可能にする」(レビィ氏)
そして、同氏がプレゼンの中でもっとも時間を割いたのが、5月8日に発表した「Box AI」だ。Box AIではドキュメントに関する質問をしたり、重要な情報を引き出したり、要約したりすることができる。
Box AIはコードを書く、Eメールの文書作成、プレゼンテーションの作成、文書の見直しといった個人の生産性向上にも役立つが、より大きな効果を生むのは会社の組織内だとレビィ氏は述べた。
「AIは企業のコンテンツに使うことで、もっとも大きな価値を発揮できると考えている。企業の中に存在するデータの80%は非構造化データ。CRM/ERP、オククルDBなどに入っている構造化データは20%しかない。クラウドにあるさまざまな非構造化データを含めたデータを理解することができるようになるのが、このAIの強み。Box AIによって、会社の中にあるコンテンツの価値を本当の意味で最大化できる」(レビィ氏)
Box AIの使い方は2つあり、1つ目は質問するというやり方。たとえば、「まとめの文書を書いてださい」とか、「ファイルの中で事実だけを抜き出して書いてください」といった質問をすると、それに対しての答えを引き出すことができる。
2つ目の方法は、Box Notesにコンテンツを作ってもらうというやり方。質問に対する回答だけではなく、文章の要約、新しいコンテンツの自動生成、メタデータ収集などが可能になるという。
レビィ氏はBox AIのデモも披露した日銀のリリース(日本語)に対して、英語で「文章を要約してください」「インフレーションに関しての日銀の見解を教えてください」という質問を投げ、数秒後に英語で回答が表示された。
9年連続でARRが成長した背景とは?
続いて登壇したBox Japan 社長である古市氏は、FY23の業績に触れ、9年連続でARR(Annual Recurring Revenue:年次経常収益)が伸び、業績が順調に推移していることを強調した。
同社の業績は3年に1回ぐらいのペースで跳ね上がるタイミングがあり、それが同社の大きな特徴だという。古市氏はその理由として追加購入を挙げ、企業のある部署で導入したものが他の部署の採用に広がったり、機能の追加購入といったケースが多いという。
また、全機能包括案件が増えていることも1つの要因で、「Enterprise Plus」というBoxが持っている基本機能をすべて含んだライセンスを購入する割合がFY23では全体の6割程度まで拡大しているという。
「グローバルでは全機能包括案件が8割近くになっていますので、これから全機能包括案件がさらに増え続けると思っています」(古市氏)
ARRの成長においては、「Box Consulting」というBoxをどう使うかのコンサルティングの伸び、ライセンスの継続率の高さ(97%)、Box Japanの最大イベントである「BoxWorks Digital Tokyo」の登録者(昨年は6,000人)なども要因としてあるという。
Boxのグローバルでの売り上げに対して、日本市場の割合は19%で、グローバルでの日本の売上比率が高いのが同社の特徴だ。
「円安で圧縮されて19%なので、円安がなければ20%を超えていたと思います。このような形で日本法人の売上比率を開示しているところを私はBox以外に知りません。何が言いたいのかといえば、Boxにおける日本市場の重要性は他の企業の比ではないということです。ズバ抜けて日本企業が重要というのが、Boxにおける日本組織の立ち位置になっています」(古市氏)
パートナーとともに官公庁、自治体、銀行、病院に注力
今後、国内で注力していく領域として官公庁、自治体、銀行、病院の4つを挙げ、そのための戦略として2次パートナーの活用を考えていると語った。
「現在、十分にBoxが浸透しきれていないのが官公庁、自治体、金融機関、病院です。実はこの4つは米国でもっとも売れているセグメントです。そのため、活用事例はたくさんあります。では、なぜこの4つが日本で遅れているのかというと、日本の中では慎重派の業界かなと思っています。こういった方々にしっかり安心して使っていただけるようにしたいと思っています。ただ、官公庁や自治体になってくると、私たちだけではやりきれません。基本的には日本のパートナー様といっしょにやっていきます」
「多くの米国発のクラウド企業は直販中心ですが、私たちはほぼ100%間接販売で来ています。この点は、これから官公庁、自治体、銀行、病院といった慎重派の方々と商売をするときにはとても頼りになると感じています。ただ、パートナーの数を増やすことはあまり考えていません。現在、一次が7社、2次が260社ぐらいありますが、数は十分だと思っています。今後は、2次店の中でもBoxに注力していただける方と一緒にもっと深く展開していきたいと考えています」(古市氏)
そして古市氏は、FY24(2023年2月1日~2024年1月31日)では、DX実現の始めの一歩として、すべてのコンテンツをデジタル化し、一元管理して、セキュリティと使い勝手の両方を推進していくと語った。それによって、企業コンテンツの8割を占める文書や動画の活用を全社活用まで押し上げる戦略だ。その突破口として考えているのがBox AIだ。
「Boxでみなさんがシェアできるようになります。次にどう分析するかなんです。今まではハードルが高かったですが、ついにAIが来ました。特に大規模言語モデルは文書や動画を分析するのに最適です。これを使うことで、今まで個人活用にとどまっていた非構造化データである文書、動画が会社単位で利活用できるようになります」(古市氏)
また、古市氏は、Box AIに搭載した大規模言語モデルが大きな価値を生むと話す。
「Box AIによって言語の壁を超えることができます。これまでわれわれは日本語を中心に活動してきたわけですが、英語でも、ドイツ語でも、フランス語でも、中国語でも、いろいろなアセットがわれわれの仕事を支えてくれるようになります」(古市氏)
現在OpenAIとの連携を進めているが、同社はGoogleとも連携しており、今後は動画やイメージの解析に長けているGoogleのAIも活用していく予定で、用途に応じてさまざまなAIを使い分けることを考えているという。