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攻殻機動隊とメタバース。神山健治監督が見つめる「今と未来」の世界

神山健治(映画監督)

特集
Project PLATEAU by MLIT

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この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。

――神山健治氏の名前を知らないアニメファンはいないだろう。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『攻殻機動隊 SAC_2045』シリーズや『東のエデン』、『永遠の831』など、多数のアニメーション作品を監督しているが、未来を予測して見通すようなモチーフとリアルな作劇でファンを虜にしている。そんな神山監督に、『攻殻機動隊』の世界観とも密接にかかわる、現代社会で実装が期待されるメタバースなど、デジタル空間と未来での在り方について聞いた。

『攻殻機動隊 SAC_2045』 ©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

「未来予測はだいたいが外れるもの」。作品は今を見据えて作られる

――神山監督の代表作といえば、『STAND ALONE COMPLEX』『SAC_2045』など、一連の『攻殻機動隊』シリーズを思い浮かべる。士郎正宗氏のコミックを原作とし、さらに派生する形で、コンピューターとネットワークが定着した未来の形を描き続けてきた。ある種の未来予言のようであり、「ネットワークに関わる仕事をするなら、必ず見ておくべき」と断言する経営者もいる。

 だが神山監督は「未来予測をしたつもりはない」と話す。むしろ考えたのは、その作品が発表された「時代」だった。

神山:未来予測はだいたいが外れるものです。大上段から有識者の方が未来予測をすると、本当は当たっていたのかもしれないけれど、なんとなく反発したくなります(笑)。

 だから未来予測が当たらなかったのかもしれない。みんなが「欲しい」と思ったものは生まれるけれど、「こうなるんです!」と言われたことは「やだな」と思われてしまうかもしれない。

 基本的に僕は”物語”を作ってきました。それが結果的に未来予測のように感じられていたのだとすれば、それは非常にありがたいな……と思うくらいです。未来予測を目的に作品を作ったことはないですね。未来予測をしているというよりは、現実に関して、過去を含めて、今までを総括しているだけです。

 しいて言うならば、「こんなことがあったらどうだろう」「現実的に見えるものを入れていこう」という思考で、ノンフィクションではない作品を作ってきたわけです。

 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』は2000年制作の作品ですが、まさに『今ってなんだろう』ということを考えて作ったものです。原作(コミック版『攻殻機動隊』)は予言の書のような作品です。インターネットが普及する以前の1989年から1990年代前半に発表されたにも関わらず、ネットワーク社会を描いていました。

 それを受けて制作がスタートした時、じゃあ「今」ってなんなんだろうか? インターネットにつながったコンピューターがもたらされた「今」の正体ってなんだろうか? そう考えると、足りないものや良かったこと、そして悪かったことなどが見えてきたのです。

 2000年前後といえば、ベルリンの壁崩壊(1989年)以降、世界が平和になると感じられた時期。そこで9.11(アメリカ同時多発テロ事件、2001年)が起きました。多くの人が「戦争はなくなる」と思っていたわけですが、でも実際にはそうではなかった。

 じゃあ、なくなる、と思っていたことの正体とはなんだったのか?

 同時に、「情報というものに価値がつく」ことの正体もわかっていませんでした。今は、誰でもない誰かがつぶやいた、たった一言に何万もの「いいね」がつく。それはどんな意味を持っているのか。

 最初の『攻殻』を作っていた時代は、そういう変化が同時に起きて、希望に満ちあふれた時代です。でも、その進化とは裏腹にネガティブなものも見えてきました。我々はアニメというエンターテインメントを作っていますから、『攻殻』では、エンタメになりやすい素材として「戦争」「犯罪」に着目した、ということです。

 僕の見つめ方は「今」。

 今起きていることには原因があるはずです。それがどう転がって行くのか……というのは、しいていえば未来予測かもしれませんが、根拠なく未来予測をしてもなぜか外れるし、そちらには行かないものです。自分で言えば、流行るかもしれないと思って作った造語が意外とバズらなかったり。流行らせるつもりはなく使っていた言葉のほうが広く使われることが多いですね。

 最近でいえば「持続可能戦争(サスティナブル・ウォー)」。名前をつけた時は「サスティナブル」も「SDGs」もなかったんだけれど、作品が世に出る頃になったら急に、という……(苦笑)。

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