優れたタイトルが市場を牽引する
もうひとつ注目すべき点は、BONEWORKSをリリースした後にメタが開発支援金を出していたことです。つまり「Quest 2で動かしてほしい」という要望を出していたわけです。メタがメタバースの上で重要視しているのは“実在感”を強化してくれるものなので、BONELABの物理体験はメタ側のニーズに合致していたということなんでしょう。
とはいえ当時は「PC VRで動くのはわかるけど、Quest 2で動くの?」と疑問を感じていましたが、今作はQuest 2への移植を前提に、PC VR向けにクオリティを上げることを止めたのかもしれないと思われる内容になっていました。たとえば物理演算の量が大きくなってしまうので、ゲームに出てくる一つ一つの部屋はBONEWORKSに比べてあまり広くありません。Quest2に対応するためにうまく要素を絞り込んだように見えます。
また、Quest 2でどう動くかを検証するレビュアーも出てきています。実際、映像自体は粗めになっていますが、PC VR版と比較しても、体験する上でそれほど違いはないんじゃないかと思います。照明などの演出はシンプルになっていますが、空間内でバールのようなものを持ったりして物理的にパズルを解きながらすすめていくという体験は同じですからね。
物理体験がVRゲームのヒットにつながるというのは本作に限った話ではありません。有名なところでは「Blade and Sorcery」もアップデートで物理挙動や、武器や魔法などを追加することでインタラクションを強化しています。ただし、Quest版の「Blade & Sorcery: Nomad」は2021年11月ではあるのですが、オリジナルのBlade and Sorceryは2018年12月に発売されたかなり前のゲームです。そのため、BONEWORKSのような新作が出ることはVRマーケットにとって重要な意味があります。
VRマーケットもまたヒット作がいかに出るかによって大きく変わってきます。毎年ゲーム機の売上のピークはクリスマスがピークになります。この傾向は、Steamでも、Questでも大きく変わりません。一般的にソフトウェア売上は、11月~12月の2ヵ月で、1月~10月分の売上合計と同等ぐらいの販売となる傾向があります。そのため、シーズンが終われば落ち着くというパターンの繰り返しになります。
Steam VRのデータを見ると、VRユーザーはクリスマスをピークに緩やかに落ち込みを繰り返しつつ増加し続けるというパターンをとっていました。ところが今年の夏場は落ち方がすごく急激で、過去のパターンに見られないほど減っていました。要因として、コロナが一段落つきつつ、人々が外出をするようになり、巣ごもりによるユーザー増が減ったからではないかと考えています。
さらにVRマーケットにとっては、今年に入ってから有力な新作タイトルがなく、ヒットタイトルがなかったことが大きく影響していました。ようやくここに来て大型のタイトルが来てくれたな……という状況になっています。逆に、優れたタイトルが登場することが、ハードを牽引するというのは、VRもゲーム機と変わらないとは思えます。
もちろん、BONELABの1本だけで市場を支え続けるのは難しいと思いますが、VR的な体験をきちんと追求することでヒットするゲームとなることが証明されたことは、VRゲームをヒットさせるには「VRらしい体験」とは何かを考えるべきかということを改めて示していると思います。
この連載の記事
-
第61回
AI
画像生成AI“児童ポルノ”学習問題、日本では表現規制の議論にも -
第60回
AI
3Dアニメーション技術の革新が止まらない -
第59回
AI
政府、生成AI推進に向けて議論を加速 -
第58回
AI
画像生成AIで同じキャラクターが簡単に作れるようになってきた -
第57回
AI
日本発のリアルタイム画像生成AIサービスが熱い 大手にとっては“イノベーションのジレンマ”に -
第56回
AI
画像生成AIの著作権問題、文化庁議論で争点はっきり -
第55回
AI
動画生成AIの常識を破壊した OpenAI「Sora」の衝撃 -
第54回
AI
画像生成AI、安いPCでも高速に 衝撃の「Stable Diffusion WebUI Forge」 -
第53回
AI
日本発の画像生成AIサービスがすごい 無料アップスケーラー「カクダイV1」 -
第52回
AI
美少女イラスト、AI技術で立体化 ポケットサイズの裸眼立体視ディスプレーが人気に -
第51回
AI
“生成AIゲーム”急増の兆し すでに150タイトル以上が登録 - この連載の一覧へ