米政府が発行を検討しているデジタルドルをめぐって、引き続き期待と不安が交錯している。
2022年5月31日に米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)が、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC、Central Bank Digital Currency)は、金融政策にどんな影響を与えるかについて報告書を発表した。
かなり専門的な報告書で、すみずみまで理解できたとは筆者は到底言えないが、おおまかに次のように結論づけている。
中央銀行は、金利や通貨の供給量を調整することで、物価や市場の安定を図っている。こうした中央銀行の役割は、「金融政策」と呼ばれている。
FRBの報告書は、CBDCを発行した場合、中央銀行が金融政策を実施する際に、これまで以上に複雑な運用が求められることになるという。
つまりCBDCを発行した場合、物価や金利のコントロールが今までより、もっと難しくなると理解していいだろう。
2022年6月3日のロイターは、この報告書の発表を受けて、「デジタル通貨が、金融政策の効き目を弱める可能性や、最悪の場合、金利のコントロールを難しくするという懸念が浮上してる」と書いている。
コロナ禍とウクライナ戦争で、あらゆる分野で値上げが続く中、デジタル通貨が金融政策に与える影響には、今後さらに注目が集まるのではないか。
中央銀行が通貨を発行する意味
デジタル通貨の発行は、日本政府を含め多くの国が、発行に向けた具体的な検討を進めている。
中央銀行がデジタル通貨を発行した場合、さまざまな利点が予想されている。
まずは、取引のスピードの向上と送金コストの削減だ。
交通系の電子マネーやQRコード決済は、日本でも日常生活に欠かせないアプリになったが、現時点では最大で数万円までの決済が想定されている。
このため、高額の買い物や会社と会社の取引などでは、クレジットカード会社や銀行が間に入ることになる。
CBDCが登場し、会社と会社の取引でも使えるようになると、送金のスピードもコストも大幅に削減される可能性がある。
数年前、金融機関がなくなる未来予測が流行り、CBDCはこうした流れを加速させるようにも見えるが、いまのところCBDCは、既存の金融機関が間に入る形で制度設計が進んでいるようにも見える。
街の商店や飲食店にとってもメリットが予想されている。
客がクレジットカードで決済をした場合、店側は、カード会社に手数料を支払っている。CBDCが登場すれば、客と店のウォレットアプリ間で送金が行われ、金融機関やIT企業が間に入るとしても、店側の手数料負担は減ると予測されている。
コロナ禍で、日本でも政府から、個人や企業に対して、さまざまな支援金や給付金が出ているが、政府から、個人や企業のウォレットに直接CBDCを送ることができるとすれば、こうした手続きのスピードも大幅に向上するかもしれない。
アフリカやアジア、中南米の国々では、銀行口座を持っていない人が多数いるが、こうした人に対して金融へのアクセスが開かれるとも期待されている。
期待感を吹き飛ばす「懸念」
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