このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第660回

第3世代EPYCは3次キャッシュを積層してもさほど原価率は上がらない AMD CPUロードマップ

2022年03月28日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 前回、AMDの3D V-Cacheを搭載したRyzen 7 5800X3Dの詳細を説明したが、同じダイを利用するMilan-XベースのEPYCが3製品、米国時間の3月21日に発売になった

 また翌3月22日には、Radeon Instinct MI210も発売になっている。簡単な説明はすでにそれぞれの記事であるが、もう少し踏み込んで解説していこう。

Milan-XベースのEPYCを発表

 まずMilan-Xについて。Milan-Xそのものの説明は昨年11月の連載642回で書いた通りだ。問題はSKUであるが、どうも3D V-Cacheを搭載した製品は末尾にXが付くことになったようだ。

TDPは280Wと240W。1ソケット向けの製品はないようで、全製品2ソケット対応となっている

 既存の第3世代EPYCのSKUもまとめて示すと下表のようになる。

第3世代EPYCのSKU
モデルナンバー コア数 スレッド数 周波数 3次キャッシュ(MB) TDP(W) 価格
Base Boost
7773X 64 128 2.20GHz 3.50 GHz 768 280W $8,800
7763 2.45GHz 3.50 GHz 256 $7,890
7713 2.00GHz 3.68 GHz 225W $7,060
7713P 2.00GHz 3.68 GHz $5,010
7663 56 112 2.00GHz 3.50 GHz 256 240W $6,366
7643 48 96 2.30GHz 3.60 GHz 256 225W $4,995
7573X 32 64 2.80GHz 3.60 GHz 768 280W $5,590
75F3 2.95GHz 4.00 GHz 256 $4,860
7543 2.80GHz 3.70 GHz 225W $3,761
7543P 2.80GHz 3.70 GHz $2,730
7513 2.60GHz 3.65 GHz 128 200W $2,840
7453 28 56 2.75GHz 3.45 GHz 64 225W $1,570
7473X 24 48 2.80GHz 3.70 GHz 768 240W $3,900
74F3 3.20GHz 4.00GHz 256 $2,900
7443 2.85GHz 4.00 GHz 128 200W $2,010
7443P 2.85GHz 4.00 GHz $1,337
7413 2.65GHz 3.60 GHz 180W $1,825
7373X 16 32 3.05GHz 3.80 GHz 768 240W $4,185
73F3 3.50GHz 4.00 GHz 256 $3,521
7343 3.20GHz 3.90 GHz 128 190W $1,565
7313 3.00GHz 3.70 GHz 155W $1,083
7313P 3.00GHz 3.70 GHz $913
72F3 8 16 3.70GHz 4.10 GHz 256 180W $2,468

 価格については1KU(1000個発注時)のもので、今回の4製品以外は昨年3月15日に発表された際の価格そのままだが、この後価格を変更したという話は聞かないので、おそらくそのままである。

 これを改めてみてみると、今回の4製品は、既存のFモデル(75F3/74F3/73F3)およびトップエンド(7763)の上位品という扱いになっている。実際、コア数とTDPは同じであり、その意味では差は3D V-Cacheの有無ということになる。そこで、3D V-Cacheあり(型番末尾X)となしをもう少し仔細に比較すると、以下の事実が浮かび上がる。

  • 動作周波数がベース/ブーストともに下がっている
  • 価格はおおむね1000ドル(16コアの7373Xのみ600ドル)程度上乗せになっている

 まず動作周波数だが、これは150~450MHzと、それなりに大きく減らされている。特にコア数が少ない分動作周波数の高めな7373Xは、73F3と比べてベースクロックが450MHz落ちているというのは象徴的である。またブーストクロックも4GHzに行かない(一番高い7373Xでも3.8GHz)というあたりは、連載659回の後半で説明したように、3D V-Cacheを実装すると発熱にともなうダイの変形がバカにならず、これを抑えるために多少動作周波数を低めに抑えざるを得ない、という筆者の仮説がここでもキレイにあてはまっているように思える。

 トータルのTDPは280Wで、ダイあたりで言えば30Wかそこら(IODの消費電力も280Wには含まれるから)だと思うが、コンシューマー向けのRyzen 7 5800X3Dはピーク時はともかく普段はずっと負荷が低いし、ピーク状態で連続稼働する時間もそれほど長くない。

 対してEPYCの場合、それこそ365日/24時間で稼働を続けるわけで、しかも負荷そのものも(100%ロードになるかどうか、はともかく)ずっと高めであることが予想される。

 この状態で保証期間中(OEMからシステムで導入した場合は、そのOEMメーカーの規定によるが、AMDからリテールパッケージを購入した場合は3年間)の動作を確実にするためには、多少なりとも動作周波数を下げざるを得ない、というのが実情なのだろう。

 もっともこの程度の動作周波数の低下は、3次キャッシュを64MB追加したことに起因する性能向上で十分カバーしてお釣りが来ると考えられる。事実ベンチマークではそういう結果が出ているわけで、もともとオーバークロック動作を考慮する必要がないEPYCにはこれでかまわないということだろう。

 そう考えると、そもそもRyzenの方も、ハイエンドのRyzen 9 5950Xではなく1ダイのRyzen 7 5800Xの方に3D V-Cacheモデルを追加した理由がもう1つ見えてくる。

 最初は単純に、3D V-Cacheモデルはそれほど数量が用意できないので、2ダイのRyzen 9では厳しいからではないかと推察したのだが(そしてこれはこれで実際にありそうな話である)、もう1つRyzen 9 5950Xでは最大ブーストクロックが4.9GHzとかなり高めであり、これを4.5GHz(Ryzen 7 5800X3Dの最大)まで引き下げると差が大きくなりすぎてしまう。Ryzen 7 5800Xなら最大ブーストクロックが4.7GHzだから、200MHzほどの引き下げで済む、というのもありそうな理由である。

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事