2種類のプロセッサーを搭載するAiOnIc
肝心のAIプロセッサーであるが、なんとAiOnIcは2種類のプロセッサーを搭載している。もともと、“RISC-V w/SMT”とGPGPUの2つのプロセッサーコアが存在することが、前ページにあるchichibuチップの内部構造の画像で明らかにされているが、Int 2/4/8を使った(つまり精度がそれほど必要ない)用途向けにLow Power AIプロセッサーが、fp8/fp16を使った精度が必要な用途向けには汎用プロセッサーが用意されている。
まずLow Power AIの方であるが、前ページにあるchichibuチップの内部構造画像でGPGPUという書き方をしていた。実際は? というと、下の画像のように16bitのMACエンジンの塊になっており、なるほどこれはDSPというよりはGPGPUに近いなと思う。
本当にもう畳み込みをするだけに特化したエンジンという感じである。また最大/平均のプーリングや全結合などもハードウェア的に実装されており、余分な手間なしで処理できる。その一方で、活性化関数はReLUのみ実装、というあたりはいろいろ割り切ったことが見られる。
一方High Performance AIの方であるが、先のchichibuチップの内部構造画像と併せて考えると、これはSMTに対応したRISC-Vコア(おそらくこちらもRV32系だろう)にVector Extensionを付けたコアが実装されており、このVector Extensionをブン廻すことで対応する形だ。
市販のIPでこの目的に適うものは存在しないが、例えば連載594回で紹介したEsperantoのET-Mineonは、こちらもSMTに対応したRV32コアで、ただしRVV(RISC-V Vector)をサポートしている。SMTの目的はメモリーアクセス待ちなどのレイテンシー遮蔽であり、これはAiOnIcでも同じことだと思われる。
おそらくRV32コアそのものは、アプリケーションプロセッサー(兼システム制御用)のSiFive E34コアと同等の、In-Order Single Issueで5~6段程度のパイプラインという比較的小さなコアで、このコアそのもののエリアサイズはそう大きくはないと思うのだが、問題はVector UnitとLoad/Store Unitはそれなりの面積になりそうなことだ。
これを4つも入れたら冒頭に書いた「80~90mm2前後」どころか「120mm2」も怪しそうな気はするのだが、これはプロセスの微細化が前提なのだろう。逆に言えばbeppuチップは、おそらくRISC-Vコアは1つだけだろうし、Low Power AIの方ももう少し規模が小さいと思われる。
そのあたりのロードマップが下の画像だ。現在はTSMCのN12でbeppuチップを製造しているが、おそらくchichibuチップはTSMCだとするとN7あたりに移行して製造されるものと思われる。
ちなみにN7を使う場合、ウェハーの製造コストは9300ドルほどになる。したがって、冒頭に出て来たチップ単価10ドルを実現するためには、最低でもウェハー1枚から900個、実際には1000個程度取らないと実現できないことになる。
1000個だとするとダイサイズは最大で70mm2、実際には50~60mm2あたりで抑える必要があるだろう。幸いにもN12→N7でトランジスタ密度そのものは3倍程度になるため、ダイサイズが減っても利用できるトランジスタ数は1.5倍近くになるので、一応微細化の意味はあると言える。
もっとも、プロセス微細化よりも(単価アップには目をつむって)回路規模を大きくする方が性能をスケーラブルに上げられるとしており、実際同社からこのAiOnIcのIPの提供を受けた顧客の場合、400TOPSのチップを製造しているとする。
同社はチップを提供、というよりもソリューションを提供することを志向しているようで、ただなにもないと開発にも困るのでとりあえずbeppuチップを製造、ついで本番向けにchichibuチップを製造する予定ではあるが、むしろbeppuチップを評価の上でIPの供給を受けて自社でAiOnIcベースのチップを製造する顧客を増やす、というのがビジネスの方向性のように思われる。
ベンチャー企業がチップの製造をメインに据えるといろいろ難しさが出てくるというのは、例えばETA Computeのケースでも紹介した通りで、IP売りをベースにSoC設計サービスなども行ないつつ基本はソリューション提供、というのは堅実な方法なのかもしれない。
この連載の記事
-
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ