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あのクルマに乗りたい! 話題のクルマ試乗レポ 第66回

今年で生産終了のアルファ・ロメオ「4Cスパイダー イタリア」 この刺激は後世に残すべき

2020年12月28日 15時00分更新

文● 栗原祥光(@yosh_kurihara) 編集●ASCII

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スペックの数値だけ見るともの足りないが
実際に乗ってみると恐ろしいパフォーマンス!

1.75リットルの直4ターボエンジン

エンジンの後方にラゲッジスペースを用意する

機内手荷物可能なバッグなら入りそう

 エンジンは1.75リットルの直4ターボ。出力は240馬力でトルクは35.7kgf・mと、イマドキのスポーツコンパクトハッチに慣れた目からすると、物足りなさそうに思えます。ですが車重は1060kgと、現行ロードスターの100kg増し程度。あちらは184馬力ですので、パワーウェイトレシオではアルファ・ロメオ4Cに軍配が上がります。ちなみに無縁プレミアムガソリン専用車で、燃費はリッター8~9km程度。最近はスポーツカーでもリッター10kmを超えるモデルもありますし、ちょっとお金がかかるクルマになっています。

 横置きエンジンの後ろには、機内手荷物程度のローリングケースが入りそうラゲッジスペースを用意。ちょっとした旅行にも使えそうです。なおエンジンフードはかなり大型で重量がありました。

シフトモード切替ボタン

ドライブセレクター

 トランスミッションはATのみ。シフトパドルでパチパチと切り替えていくタイプです。この点はアルピーヌA110と同様です。シフトはレバー式ではなくボタン式を採用するのもアルピーヌA110と同じ。1が前進、Rが後退、A/Mはマニュアルモード切替とシンプルでわかりやすいですが、メーターを見ないとモードがわからない点は少し不便。走行モードの切り替えは、アルファ・ロメオでおなじみのd.n.aシステムで、4Cではアルファ・レースという専用モードも備えられています。

アクラボビッチのテールパイプ

 マフラーは焼き色が美しいアクラボビッチ製。アクラボビッチは、スロベニア共和国にある、主にバイク用エキゾースト関連部品を製作するブランド。これが実に刺激的で良い音がします。主に欧州車のスポーツグレードで、このマフラーを目にすることがあります。近年、日本でもR35用やGRスープラ用の社外マフラーの販売が始まりました。

アルファ・ロメオ 4Cスパイダー イタリアのコクピット

サイドシルが幅広く、またぐ形で乗り込む

 イタリアの高級車だから室内も豪華で……と思いドアを開けると拍子抜けするほどの軽さ。さらに綾織りのカーボン生地がむき出しと、まるでレーシングカーの世界。というのもボディがプリプレク整形されたカーボンモノコックに、アルミのサブフレームを取り付け、ガラス繊維のボディーパネルを組み合わせた、ひと昔前のレーシングカーとほぼ同じような作りだから。いざ乗ろうとするとサイドシェルは高くて幅が広い。よって乗り降りはS660の比ではないほど辛いものがあります。一方で同じようなクルマであるロータスのエリーゼに比べたら良いという印象でしょうか。

アルファ・ロメオ 4Cスパイダー イタリアのドライバーズシート

 レザーとアルカンターラからなるイエローステッチ入りセミバケットシートに身を鎮めると、コクピット感に驚かされます。S660に似ていますが、身動きはこちらの方がとれそう。着座した位置から見える眺めは、S660と比べて3cm以上は低い印象を受けます。ちなみにS660は身長180cmを超える筆者ではTバールーフ部に頭が当たりますが、アルファ・ロメオ4Cはヘッドスペースも十分確保されています。

ナビシステムとカーオーディオシステム

エアコン操作などのパネル類

助手席側から見ると、4Cの操作系がすべてドライバーに向けられていることがわかる

 装備品は素っ気ないもので、ナビはディーラーオプションのパナソニック製ゴリラ。オーディオはアルパインの1Uタイプがインストールされていました。ドリンクホルダーはセンターに2個、縦位置で配置。ちなみにUSB充電ポートはありません。エアコンの操作などはすべてドライバーに向けられており、コクピット感がハンパありません。このように装備は素っ気ないのですが、そう思わせないイタリアはセンスがいいなぁと感心しきり。スポーツカーのインテリアは、この位が丁度いいと感じます。

ステアリングホイールはD型

メーターパネルの様子

リバースギアに入れた様子

 メーターはLCD液晶で、表示はセンタータコでやる気にさせてくれます。リバースに入れるとソナー表示されるなど、モードによって表示内容が若干変わります。

 早速動かしてみようとキーを回します。思っていたよりエンジン音は静かで、アクラボビッチサウンドは眠ったまま。1のボタンを押し、サイドブレーキを解除するも発進しません。早速広報担当に「あの……動かないんですけれど」と尋ねると「あ、ATですがクリープはありません」とのこと。床から生えるアクセルペダルを少し踏むと、ゆっくりと発進して一安心。では車庫から出ようとステアリングホイールを回した瞬間、次なる驚きがありました。

 「このクルマ、パワステがついていない!」4Cは重ステのクルマだったのです。えいやっとステアリングホイールを回すのですが、フロントタイヤのサイズが205のためか、想像以上の重さ。車庫入れはもちろんのこと、街乗りの交差点でも終始泣かされることになります。特に車庫入れの切り返しは……。

斜め後方の視界はほぼ皆無!

 泣かされるついでに言えば、後方視界が絶望的に悪い! S660も大概ですし、アルピーヌA110もランボルギーニ・ウラカンもそうでしたが、斜め後方はとにかく見えません。こういったクルマに乗る時は、サイドミラーの1/3以上はボディーが映るような角度にするとともに、慣れないうちは普段より長めにウインカーを出し、後方車両のご協力いただいた方がよいでしょう。ちなみにバックモニターはオプションで用意され、ルームミラーの左側に申し訳ない程度に映ります。

 クリープ発進しないことに驚き、重ステに驚くのもつかの間。今度は脚の硬さに驚きと悶絶することに。これを何と形容したら伝わるかと脳をフル回転させて出た言葉が「壊れているんじゃないか?」。試乗車にはディーラーオプションのドラレコが搭載されていたのですが、その衝撃感知がマンホールを通過しただけでも鳴る有様なのです。さらにタイヤが超扁平ゆえに逃げがなく、キックバックが強烈。不規則な路面やわだち、凹凸を常に拾い、それを重ステのハンドルで抑え込むのに必至。常に腕の力を必要とします。おかげで試乗翌日、左右の腕と肩が筋肉痛になりました。

アルファ・ロメオ 4Cのペダル類

 さらにブレーキペダルがコントロール重視でアシストサーボが弱めのセッティング。かかとをフロアに置いて踏むスタイルだと止まらず、教習所の教え通りに足全体を使う必要があります。ペダルは実にレーシーなもので、右ハンドルゆえか、ややオフセットしているのは割り切らないといけないのでしょうけれど、剛性の高さには唖然とさせられます。ペダルピッチも広いので、踏み間違えはなさそう。

 このように街乗りをイージードライブで楽しむという言葉は、アルファ・ロメオ4Cの辞書には書かれていません(たぶん) 。ここまでプリミティブなクルマとは思わず、予備知識ゼロで「アルピーヌA110のようなクルマ」と想像して試乗取材を引き受けた筆者は、強烈な街乗り運転体験で完全に沈黙。スピーディー末岡を心から憎みました。その彼も「まさかココまでとは……」と閉口。「どうするコレ?」という問いかけにも、ただ苦笑いするだけ。不穏な空気が流れます。古いクルマを知っている方からすると軟弱者とお叱りを受けることでしょう。ですが、運転が大変そうに見えるイマドキのスーパーカーの方がはるかにラクです。

デートカー? なにそれ? と言い切るストイックな乗り心地

助手席を開いて、このサイドシルの幅。女性にはちょっと辛そう

助手席のフットレスト。エアコンの操作パネルが足に当たる

 数年前、取材のため若いモデル女子をS660に乗せた時のこと。モデル女子が「元カレが4Cに乗っていて、それに似ている」という話だしたのを思い出しました。それによると「乗り降りがし辛い上に、常に街の人から視線を感じて恥ずかしい。助手席に座ると機械(エアコンの操作パネル後端部)が足に当たる上に、何より乗り心地が最悪で凄く嫌でした」とデートカーにまったく向かないと。別れた原因はクルマではないらしいのですが、延々と元カレの話を聞かされたため、妙にイラついた筆者。話は完全スルーしていたのですが、4Cに触れた今なら凄く理解できます。このクルマでデートした彼氏、頭のネジが数本外れています。

アルファ・ロメオ 4Cスパイダー イタリア

 ですが、これがスピードレンジを上げていくと話が大きく変わってきます。ワインディングロードなどでは、ダイレクトな感覚と、アクラボビッチのマフラー音が大変に心地よいではありませんか。一言で言えば今までどの車でも味わったことのない生々しさがあり、クルマ好きならこの感覚を味わったら最後、愛車が色あせてくることでしょう。

 特にダイナミックモードにした時は圧巻の一言。野太い音とともに強烈に加速し、コーナー手前で最高のタッチを感じながらブレーキング。自分を中心としてコマのように回る感覚は、クルマ好きなら涙を流して喜ぶこと間違いナシ。危うさも感じるほどの旋回性は特筆すべきもので、とにかく雨が降ったら何が起こるかワカラナイ怖さがありそうですが、このクイックなステアリング挙動は病みつき! 思わず笑い声をあげてしまいます。同じミッドシップのアルピーヌA110やポルシェ・ボクスターよりも速くコーナーを駆け抜けていきそうです。

 クルっと回って、グワッと加速し、そしてギュッと速度を落として、クルっと回る。30分も走れば汗だくに。これぞスポーツカーのあるべき姿ではないでしょうか。たとえ翌日筋肉痛に悩まされたとしても、後悔はありません。だってクルマとスポーツ、いや格闘した証なのですから。

 4Cの世界感に唖然とさせられっぱなしです。確言すれば「4Cは公道レーシングカー」と言うことができるのですが、それらを名乗るようなスポーツカーとの大きな違いは、「一般道でも慎ましやかに楽しめる」点といえます。というのも、公道レーシングカーを名乗るクルマのほとんどが、ボディーサイズやパフォーマンスの面で、国内の一般道でその魅力を感じることが難しいから。4Cの良い点はボディーサイズからくる取り回しという点において、神経質にならないことでしょう。さらに前方視界は、上は狭いものの下と左右はめっぽう広いのも美質。重ステと足の硬さの2点を除けば、都心部でも運転しやすいクルマなのです。車高は低いですが、それほど神経質になる必要もなさそう。どうしてこのようなジャストサイズのスポーツカーが少ないのでしょう。

【まとめ】最近稀な五感に訴えるスポーツカー
それが4Cスパイダー イタリア

アルファ・ロメオ 4Cスパイダー イタリア

 今日、ダイレクトに五感を訴えるスポーツカーは本当に少なくなりました。

 まさに4Cの世界は魅惑の魔女そのもので、人生が狂わされそうな官能性を秘めています。ゆえに排気ガス規制の名のもと、魔女狩りされてしまったのでしょう。この非日常性、惚れました。短時間の試乗ではまったく乗りこなせませんでしたが、乗りこなしてみたい!

アルファ・ロメオのエンブレム

 アルファ・ロメオのエンブレム・ロゴの由来はアルファ・ロメオの発祥の地、ミラノ市の紋章(赤十字とミラノの貴族ヴィスコンティ家の紋章である人間をくわえた大蛇の2つのシンボルを組み合わせたもの)を左右逆にしたものと言われています。この大蛇のことをビショーネと呼ぶのですが、ジュリエッタと4Cに触れた筆者は、ビショーネに飲み込まれました。乗っているクルマは違うものの、今や心は熱狂的なアルファ・ロメオ信者アルフィスタです。

 蛇は脱皮して大きく成長するさまや、長期の飢餓状態にも耐える強い生命力、自らの尻尾を喰われると環になることから、様々な宗教で「死と再生」「不老不死」「輪廻転生」の象徴とされてきました。そう考えると、ビショーネに飲み込まれている人は、むしろ蛇から輪廻転生した人の姿にも見えます。その意味においてアルファ・ロメオは人をクルマ好きに生まれ変わらせる魔性のブランドと言えそう。生まれ変わったら、アルファ・ロメオが似合う男になりたいものです。

 アルファ・ロメオからは今秋、新型のFRスポーツセダン「ジュリア」とSUVのステルヴィオが上陸しました。こちらもいつか乗ってみたいと思います。アルファ・ロメオ最高! と書いて、このレビューを締めたいと思います。

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