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業務を変えるkintoneユーザー事例 第88回

電話メモから顧客管理、印刷物対応、会計システムとの連携まで

kintone初心者が弁護士事務所を紙文化から脱却させた3年間

2020年08月28日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●大谷イビサ

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 2020年6月18日、「kintone hive tokyo vol.11」が開催された。kintone hiveはkintoneのユーザーによる事例紹介や活用事例を発表するイベントで、新型コロナウィルスの影響により、オンラインでの開催となった。今回は「法律事務所×kintone 紙管理からの脱却」というテーマで、弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 関真保氏によるプレゼンの様子をレポートする。

法律事務所とkintoneがテーマ

昭和生まれもびっくりの紙文化

 弁護士法人シーライト藤沢法律事務所は、2015年に阿部貴之弁護士が独立開業した。地元の東京から湘南の藤沢に出てきて、最初は弁護士ひとりでがんばっていたそう。現在は、弁護士4名、スタッフ8名で「依頼者の良き伴走者となる」をモットーに活動している。注力分野は交通事故や労働災害、相続に加え、阿部氏が以前東京都の労働委員会にいたころもあり労務関係にも力を入れているという。

 関氏は法律事務所で働くのが初めてだったが、入社時にはウェブサイトの更新に加え、kintoneの構築を指示された。阿部氏は創業当時から、これからは何かしらデジタルのシステムで情報を管理する必要があると考えていたという。

 実際に創業後まもなく、阿部氏はkintoneの導入を決めていたそうだが、日々の忙しさの中、システムの構築まで手が回らなかった。もちろん、関氏はkintoneのことを知らなかったが、大丈夫だろうと引き受けたという。

弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 関真保氏

 入社してkintoneについて調べてみると、業務を把握している人が、現場の人間が使いやすいように、自分で構築できるシステムだということに気がついた。そこで、まず事務所の業務の流れや問題点を把握する必要があると考え、入社後2~3ヶ月はアプリ構築には手を付けなかったという。適当にアプリを作って散らかすのは「導入時あるある」なのに、未経験でこの動きができる関氏はすごい。

まずは、業務フローを把握するところから着手した

 そして、業務フローをチェックすると、びっくりすることばかりだったとそう。電話メモも情報も案件の記録も紙で、さらには取り扱う郵便物の量も多かった。

「業界特有かも知れませんが、昭和生まれの私でもびっくりするような紙文化でした。最初にぶつかった壁は、達筆な代表弁護士の文字の解読です」(関氏)

 ここのスライドは撮影禁止だったが、阿部氏の手書き記録が表示された。そこまで汚くはないのだが、確かに読みにくい部分も多い。第三者には判別が難しいと思われた。当時はこのような紙の記録が大量にあったという。

 業務の流れをつかんだ関氏は、まず電話メモアプリを作成した。日々、電話はたくさん使っているので、スタッフがkintoneに慣れるのにもちょうどいいと考えたのだ。電話が来るのだから、強制的に使うしかない。受電の記録を残して、保存すれば、相手に通知が行くような簡単なものだったが、記念すべきこの第1号アプリは、今も現役で使われている。

全員がよく使う電話メモからkintoneアプリ化した

ファイリングされていた顧客情報をkintoneでデータベース化

 次に取りかかったのは、顧客管理アプリ。顧客情報を紙で管理しており、ファイリングした書類を保存する戸棚がいくつも並んでいた。そこに、日々の案件の記録や、郵便物の発送の記録などが積み上がっていく。

 そのため、電話を受けると、少々お待ちください、と言って、まずはファイルを探しに走る。ファイルはあいうえお順で並んでいるはずだが、弁護士の手元にあったり、誰かが作業中だったりで、発見できない場合もあったという。そこで、顧客ごとに符号を付けて管理するアプリを作成した。

「この顧客情報管理アプリができると、関係各所からの電話にもスムーズに対応できるようになりました。今では、数百件の案件を常に抱えていますので、電話のたびに探していることを想像したら、ぞっとします」(関氏)

 顧客管理アプリを案件記録アプリと連携させることで、紙に印刷されていた情報を管理画面に集約することができた。弁護士やスタッフ間で情報共有できるようになり、今でもいろいろな情報を日々更新している。

顧客情報は紙でファイリングし、電話の度に走って取りに行っていた

「次の壁もやっぱり紙でした。相手方や裁判所に提出する際には、どうしても紙に印刷する必要があり、郵便でのやりとりがとても多い業界なのです」(関氏)

 この時、関氏はひとりでアプリを作成していたので、自分が作成しているものが、他の人から見てどうなのか、という悩みを持つようになった。これも、普通の事例であれば、アプリを作り散らして利用を強制し、トラブルになって始めて気がつくこと。先見の明がすごい。

 そんなタイミングで、女性が入所し、kintoneに興味を持ってくれたそう。彼女と相談することで、考え方が合っているんだとか、ここが使いにくいんだ、ということに気がつけるようになった。また、事務所にはデジタルネイティブ世代の若い弁護士が多いそうで、合理化や情報の安全性などを重視して、システムの利用を促してくれるので、関氏は俄然強気でアプリ作成が進められるようになったという。

「もし、孤軍奮闘されている方がいたら、他の部門でもいいので、kintone仲間を見つけてみては、と思います。隠れkintoneファンがいるかもしれないです。誰もいなくても、こういったイベントでkintoneユーザー同士、横のつながりができると、いいなと思います。そんな仲間と話していると、現状の法律事務所では、紙の郵便物からはしばらく逃げられないと判断しました」(関氏)

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