業務を変えるkintoneユーザー事例 第128回
北國銀行のITコンサルチームとタッグを組んだ業務改善
三度目の正直でkintone導入に成功 石川県の病院で進むペーパーレス化
2021年12月07日 09時00分更新
kintone hive nagoyaの事例講演の4人目として、医療法人社団愛康会 法人本部財務部長の内潟将宏氏が登壇。同院のアプリ開発の失敗と逆転の経緯を話した。
kintoneを2度試して、失敗した過去
医療法人愛康会は、「未病から看取りまで」を合い言葉に、石川県小松市と金沢市で医療、介護を展開している病院。長年小松市で「小松ソフィア病院」を中心に地域医療に取り組むのに加え、2020年、新たに30km離れた金沢にクリニック2院を開院した。
実は、愛康会では過去2回、kintoneをお試し導入したが、2回とも断念している。「もともと電子カルテなどの基幹システムは導入していたものの、これを少し変更したくても多額のコストと複雑な手続きが必要だった。ITベンダー任せでなく、アイデアをすぐに実行できる環境がほしいと思っていた」(内潟氏)
医療のシステムは法令の制限もあり、強固に組まれている半面、柔軟性が不足していた。だが、新しいシステムのためにサーバーを建てるのも難しく、クラウドでいいものがないかと探していたところ、kintoneの存在を知る。
しかし2度の試用では、あれもこれもと完成度の高いものを求めすぎ、構想が先立って思うように進まなかった。内潟氏は、過去にデータベース構築の経験があり、そのイメージを追い求めてしまったことも、スムーズに開発が進まなかった一因だという。
とはいえ、昨年の金沢進出によって、事業が拡大するなか、紙ベースの業務はいよいよ限界を迎えていた。「待ったなしの状況になり、自分たちで無理なら、誰かの助けを借りるしかないと思っていた」(内潟氏)
そこへ、主力取引銀行の北國銀行のITコンサルチームが、kintoneならば実績があると、手を差し伸べた。ここから、kintoneを使った業務効率化の取り組みがスタートする。
22種類の申請書電子化からスタート
最初に着手したのは、総務、経理、労務申請のアプリ開発だった。「申請ポータル」という職員用のホームページを立ち上げ、購買申請、立て替え費用の精算申請、休暇申請など22種類もの申請に使用できるようにした。「22の申請項目を作ったのは、北國銀行のかたからの『20個作りましょう』という提案が発端だった。20個に絞る課程で、多数の帳票の中から優先順位を決めて開発していくことができた」(内潟氏)
実際の電子版申請書の画面は、きわめてシンプルにできている。たとえば物品購入経費の精算申請では、申請者を選ぶと「承認者1」「承認者2」の名前が自動的に設定される。あとは内容と金額を入れて登録すれば申請は完了する。
独自の工夫も組み込んだ。「ボタンの名称について、ただ『承認』などとするのでなく、『本部確認から出金へ』とステータスがわかるように長め説明を入れた」(内潟氏)
北國銀行の支援のもとで、この22種類の申請書を稼働させた同病院では、次のステップとして自分たちでアプリを作ることにする。構築したのは、入職前の職員対応に使うシステムだ。
入職者向けのポータルを開設し、最初にメールアドレスだけを聞けば、あとはこのポータルに誘導して、個人情報の登録や必要な書類のアップロードなど、入職にかかわる手続きは全てこのサイトの中で完了する。「マンナンバーや給与振込先の口座も含め、登録してもらった情報は、そのまま社会保険労務士と会計事務所に共有し、職員の人事給与関連の登録が迅速に処理できるようになった」(内潟氏)。事務的な登録だけでなく、制服の購入や健康診断の管理まで、一括で済んでしまうという。
また、職員に対してこれらの業務ポータルの使い方を説明した動画を手作りして、院内で共有している。「『保存』だけでは申請は完了しません。『申請』を押しましょう、といった基本的なことを丁寧に説明している」(内潟氏)
本部オフィスは消滅。完全ノマドワークに
まだ導入して間もないが、すでに効果が表れている。まずペーパーレス化だが、毎月200名分の給与計算に使用していた紙の厚さが、システム導入前の2021年3月は約4cmだったのに対し、導入後の4月は約2.2cmに半減した。今後さらに減らせる見込みだ。前述の通り、入職の処理もほぼ電子化が実現している。
また、職員がどこにいても、経費などの申請やその承認ができるようになり、業務がスピーディに進むようになった。その結果、本社所在地の小松ソフィア病院から、本部オフィスが事実上消滅した。「自分の固定したオフィスがなくなり、小松でも金沢でも、そのときに必要な場所に行って仕事をするジプシーのようなスタイルに変わった」(内潟氏)
システムが定着したことで、現場からの提案も活発になったという。たとえば院内の「感染対策委員会」が、職員の感染対策について抜き打ちのアンケートを作った。
今後については、医療経営の改善のため、患者をアシストする機能を強化していきたいと内潟氏は語る。「経営改善のために、売り上げ(診療報酬)を増やそうという話をすると、途端に現場からは拒絶反応を示される。だが本当は、当院がいいと思うことを提案することが患者さんの改善につながるということを理解してもらおうとしている。やり方としては声かけも重要だが、データを見せながら説明できれば説得力が出てくる」(内潟氏)
そのために内潟氏が試作しているのが、「簡易CRM」と呼んでいるシステムだ。これは、一度来院した患者の情報をkintone上に集めて、その後の状態変化に合わせて同院が提供できる医療サービスを自動的にリストアップするものだ。
もう1つが、患者になりそうな人の増減を地図上にプロットして、地域ごとのニーズの変化を捉える仕組みが作れないか、検討している。
内潟氏は、「kintoneは、電子カルテでは行き届かない部分を効率化し、臨床現場の自由度を高めてくれる。アプリを作るのは非常に簡単だが、当院のように、スタートでいろいろ考えすぎて足踏みすることもある。そういうときは、躊躇なく外部に助けてもらって、一歩を踏み出すことが重要だ」と語った。
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