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業務を変えるkintoneユーザー事例 第88回

電話メモから顧客管理、印刷物対応、会計システムとの連携まで

kintone初心者が弁護士事務所を紙文化から脱却させた3年間

2020年08月28日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●大谷イビサ

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印刷への対応はトヨクモの「プリントクリエイター」で実現

 さらには、kintoneを導入した後も、印刷物の作成はExcelを使っているという課題もあった。エクセルとkintoneでつねに情報の統一が必要で、顧客の住所が変更されれば2カ所修正する必要がある。これはミスの原因になってしまうところ。

 そこで導入したのが、トヨクモのプリントクリエイターだった。プリントクリエイターはkintoneアプリのデータを元に、帳票を印刷するサービス。送付書や手紙を選び、郵送かFAXかを選ぶと自動的に文書を作成してくれる。PDFファイルはそのままkintoneに保存すれば紙で保存する必要もない。

 さらには、宛先シールも撤廃した。プリントクリエイターで窓付封筒に合わせたレイアウトの文書を印刷し、そのまま入れられるようにしたので、名前の記載ミスがなくなった。

「プリントクリエイターの導入に伴って、印刷から封入までの時間が、1案件につき57分20秒の削減できるようになりました。1年間200件受任するので、190時間以上の削減になります。時間の削減イコール経費の削減ということで、プリントクリエイターの導入はとても大きな改革でした」(関氏)

郵便物の印刷をkintone状から行うことで年間190時間の工数削減を実現した

 ただ、プリントクリエイターを導入しても、Excelから脱却できなかったのが請求書だった。そこまで作業の頻度が高くないのに、大がかりな連携を構築するのを先送りにしていたのだ。しかし、請求書の内容にミスが発生したり、未収金の発生に気がつかないという問題を抱えていた。

「請求書もkintoneとの情報の連携ができないかと考えていたのですが、その時にちょうど事務所のお金をマネーフォワードで一括管理することになりました。それなら、マネーフォワード クラウド請求書連携プラグインがあるじゃないか、ということで連携を試みることになりました」(関氏)

 案件管理アプリから請求書を作成するように促して、そこから請求書のデータをマネーフォワードクラウド請求書へ送ることで、自動で請求書が作成されるようになった。マネーフォワードの機能で、銀行と連携し、未入金が一目でわかるようになったので、未収金の発生を防ぐことにも成功した。

外部サービスと連携させて請求書も自動化し、ミスを防止できるようにした

 弁護士が裁判所に訴状を提出することもある。訴状は、裁判所に訴える内容の詳細が書かれた文書で、文章はWordで、相手方に請求する金額の計算にはExcelを使っていたそう。以前は、裁判をすると決まってから訴状を提出するまでに、どんなに早くても1ヶ月半はかかっていた。

 特に、膨大な資料の中に書かれている原告と被告の名前や固有名詞、金額などのチェックに手間がかかっていた。そこで、kintoneに登録されている顧客情報から、Excel情報を吸い出し、Word文書のチェックを行なうオリジナルカスタマイズを進めた。このおかげで、早ければ2週間程度で訴状を提出できるようになった。

「自動化によって、人的ミスが減った上、3倍のスピードアップに成功しました。何より、作成に関わる弁護士やスタッフの心的負担が軽減されて、みんなのフットワークがすごく軽くなったというのもよかったと思います」(関氏)

kintoneの情報をチェックにも活用して業務効率を改善した

アナログの極みだった法律業界も変わっていく

 関氏も新型コロナウィルスの影響で急遽在宅勤務となった。しかし、すでにkintoneで案件管理をするようになっており、常日頃から弁護士からの指示はアプリのコメント欄で行っていたので支障は出なかった。さらに、プリントクリエイターで弁護士の印鑑を用意し、案件ごとに担当の印鑑が自動で押印されるようなカスタマイズも行なったそう。印鑑を押すためだけに自粛期間中に出社することが話題になったが、関氏はkintoneとプリントクリエイターを活用することで、クラウド化を実現した。

kintoneで指示するフローになっているので在宅勤務になっても問題は起きなかった

 関氏は「kintoneは多様なAPIや連携、ツールが公開されているので、使わない手はないと思います。弊所ではチャットワークでお客さまとコミュニケーションしているのですが、今後kintoneからリマインダーを出したり、問い合わせをkintoneに反映させたりできるのではないかと試しているところです」とチャレンジを語る。

 その上で、「アナログの極みであった法律業界も、リーガルテックという言葉も聞かれるようになって、今後は変わりそうです。オンライン裁判も一部で始まっていて、紙の提出が過去のことになる日も近いかも知れません。今後も、これまでの経験を活かして、弁護士とお客さまのためになるようなアイディアを形にできればと思っています」と関氏は締めた。

 紙に溺れないように作った電話メモアプリから始まったkintoneだが、たった3年で訴状の作成時間短縮といったハイレベルの活用にまで発展した。新型コロナウィルスの影響による突発的な在宅勤務にも問題なく対応でき、紙を減らすという当初の目的も達成。当初、関氏がkintoneのことを何も知らなかったというのが信じられないくらい、素晴らしいユーザー事例と言えるだろう。

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