業務を変えるkintoneユーザー事例 第93回
「情シスは現場のkintone運用をどうサポートすべき?」のヒント満載
イマイチだったkintone運用を劇的に改善したDDホールディングスのやり方
2020年11月02日 10時30分更新
kintone hive tokyo 2020の4番手として登壇したのが、さまざまなブランドで飲食店を手がけるDDホールディングス。同社の情シスに入社した寺田勇介氏は300ものkintoneアプリが現場でうまく運用されていない状況を改善すべく、6つの施策を実施してみた。
300以上のkintoneアプリが運用されている会社に入社したら?
DDホールディングスは、200ブランド・500店舗の運営を手がける外食産業企業。「100店舗・100業態」を目指した創業者の想いからバリエーション豊かなブランドを重視しており、店内で鰹をわらで焼き上げる「わらやき屋」、不思議の国のアリスをモチーフにした「アリスのファンタジーレストラン」、九州の大衆酒場を都内でも楽しめる「熱中屋」などの居酒屋・レストラン、コンセプト重視の「ALOHA TABLE」や「Chano-ma」「kawara cafe&dining」といったカフェ・ダイニング、ビリヤードや室内ゴルフを楽しめる「BAGUS」、ブライダル・ホテルまで幅広い運営している。
今回登壇した寺田勇介氏は情シスやSIerの立場でkintoneに長らく関わっており、kintone hiveも2015年の初回から参加している。「本当に宝の山がいっぱい詰まったイベント。数々のヒントを得られました」と振り返る。そんなkintoneの経験が買われ、業務系SEの専属としてDDホールディングスに入社した寺田氏は、現在管理本部 グループ情報システム室に所属。「つねに自分の仕事に集中できる環境を作る」をモットーに業務改善やコンサルティングを担当している。
寺田氏が入社したとき、同社ではすでに300以上のkintoneアプリが運用されていたが、基本は現場に運用が任されており、情シスはノータッチだった。一見問題ないように思ったが、現場に話を聞いたところ「わかりづらい」「他システムにも同じことを入力している」「アプリを作るのが意外と難しい」「kintoneってなに?」といった声が本音として漏れてきた。「専属者がおらず、業務の片手間でアプリを運用しているという状況だったので、やはり便利なアプリを運用するのは難しい。結局、kintoneっているの? 情シスで管理するの? といった声が出ていた」と寺田氏は課題について語る。
長らくkintoneを使っていた寺田氏からすれば、これは「もったいない」というしかない状況。「支払っている金額は同じなんだから、kintoneを使い倒そうと決意しました」(寺田氏)とのことで、6つのことに手を付けた。
kintone利用を活性化させた6つの施策とは?
まずはわかりやすさだ。「世の中では多くの人がECサイトやモバイルアプリを使いこなしているのに、マニュアルを見ないとkintoneの入力のやり方がわからないなんて、やはりダメ」(寺田氏)とのことで、kintoneアプリの操作性を見直した。特に飲食店の現場では、時間の合間で事務作業をやっているので、わかりやすさは特に重要。プラグインを用いて、必須項目を色分けしたり、どこまで入力したか、わかるようにした。また、手入力を可能な限り減らすため、共通のマスタDBを構築し、ルックアップで参照できるようにした。kintone上にマスタDBを構築することは、運用推進の大きなポイントだったという。
また、情シスで使っている道具はみんなで使おうというコンセプトの元、自動化のためのRPA、データ連携のためのEAIのほか、PrintCreator、FormBridge、kViewerなどのトヨクモのkintoneツールもユーザーに開放。「kintoneってなに?という悲しい声もあったので、社内でも積極的に勉強会を開いた」(寺田氏)とのことだ。
アプリを作るためのテンプレート化も進めた。社内アプリをテンプレート化することで、開発は楽になり、画面も共通化されるのでユーザーの入力も楽になる。たとえば、ワークフロー用のテンプレートではプラグインによって独自のボタンが配置され、処理履歴も専用アプリに残すことができるという。
さらに社内では「kintoneが流行っている感」をアピールしたという。「打ち合わせや説明会で可能な限りkintoneというキーワードを出したり、ポータルサイトにロゴを貼ったりした」という。これにより、上層部からも「kintone流行っている」という認識され、社内にもkintoneという言葉が飛び交うようになった。
そして一番大事だったのは「ふらふらとこっそり」のタイトルで披露されたアプリの利用状況の把握だった。「ふらふら」では社内をまさにふらふらしながら、kintoneアプリの利用実態をヒアリングする。しかも、打ち合わせだと本音を引き出せないので、フリートークで聞き出す。ユーザーからカジュアルにkintoneについて聞き出して、不満や課題を洗い出した。
「こっそり」では標準機能であるレコードの条件通知やリマインドを使って、利用状況をウォッチ。「5年間のkintone経験からすると、これは非常に有効。ワークフローで申請ボタンを押し忘れていたり、備考欄に毎度同じことが書かれたり、といったことがわかります」(寺田氏)とのこと。これに対して、たとえば押し忘れに関してはアラートを挙げるようにしたり、入力内容が同じだったら、あらかじめフィールド化してしまうといった改善が可能になり、利用者の満足度を上げることが可能になるという。
入力率は43%からなんと92%へ そして増える連携案件
こうした6つの工夫により、まず入力率が以前の43%から92%にまで劇的に上昇。また、利用者からの依頼傾向も、当初の「このExcelをkintone化してほしい」「こんな申請フォームを作ってほしい」といった依頼から、「こんなアプリを作って、●●システムと連携したい」といった依頼に変化した。これには寺田氏も驚いたという。
会社や事業部でバラバラだったアプリがテンプレート化によってまとまったのも大きかった。現在は360個中、167個が同一のレイアウトになっているという。そして、なによりうれしかったのは、打ち合わせで社員から「kintoneでやろう」という話が増えたことだった。
寺田氏は具体的なアプリを紹介した。kintoneとExcelライクな操作感を実現するkrewSheetを組み合わせた「COVID-19対応の営業時間マスタ」では各店舗の営業時間を一元管理。東日本大震災の営業時間短縮時には店舗ごとのExcelで管理していたが、今回はシフトや問い合わせの管理も容易になったという。
修繕依頼アプリも会社・業態でバラバラだったフィールドや文言が共通化され、会社ごとに閲覧制限をかけたり、自動計算して数値をそろえることも可能になった。さらに「カンタンマップ」というプラグインで作った土地賃貸借マスタでは、kintoneに登録されたテナントが地図上にマッピングされ、用途に応じて表示・非表示を切り替えられるという。
これからやることとしては、まずkintoneとRPA、EAIを用いた「クラウド入社システム」が近日リリース。入社手続きが圧倒的に簡単になる連携と言うことで、そのうちどこかで話してくれるとのことだ。また、APIがないシステムとワークフロー連携やチャットボットと連携したkintoneの簡単化も進める予定とのこと。今後も連携を軸に新しい使い方を拡げていくことになりそうだ。今後の情シスの役割として、「今までは店舗のインフラが中心だったが、今後は業務システムの構築をチーム化し、従業員の本来の仕事ではない部分や事務処理をどんどん減らしていきたい」と寺田氏は語った。
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