既存の設計方針と消費電力の最適化で
インテルとAMDに立ち向かえるか?
AppleのSoCは、iMacやMac Proに使うにはあまりに力不足である。これは、プロセッサーの物理実装に関わる問題である。
すでにApple A12とA13は、インテルやAMDのx86プロセッサーをIPC的には上回る性能を出していると書いた。これは事実だと思うが、実際にワークロード負荷の高いアプリケーションのためにCPUをぶん回してみると、A12やA13はおそらくCore iやRyzenの敵ではない。
これは既存のAn系列は、基本的にモバイル向けの省電力設計になっており、デスクトップ向けの「長時間、高クロックで連続運用」の作り方になってないからだ。これはプロセッサーの物理設計の問題である。
iPhoneとiPadの場合、ピークではコアあたりiPhoneで2W、iPadで5Wが許されるが、ピークで運用できるのはごくわずかな時間で、通常はiPhoneで1W、iPadで2W程度に落ちる。逆にそうした運用を前提に内部の回路を最適化するので、無駄が少なく効率的である。
こうしたチップに無理やりピークパフォーマンスで連続運用させると、最悪は燃えることになる。
このあたり、インテルとAMDの場合、「もともとはデスクトップ向けに長時間高クロックで連続運用しても大丈夫なコア」を作り、これを電圧や周波数制御で低めの消費電力に抑えて使う形になっている。
回路的には無駄な部分が多いので、本当に最適化したモバイル向けには効率的に及ばないものの、幅広い周波数レンジで使える製品ができることになる。
もう1つ言えば、iOSあるいはmacOSについてもMacBook Airあたりであれば、big.LITTLEは許容されるのだろう。インテルもSurface Neo向けにbig.LITTLEもどきを実装したLakefieldを投入するわけで、これはいい。ただiMacやMac Proにbig.LITTLEはおそらくそぐわない。この市場には、bigコアのみの製品が必要になると考えられる。
おそらく、通例で言えば今年9月あたりに投入されるiPhone 12(仮)に搭載されるであろうApple A14(仮)は、既存のAnラインをそのまま継承した設計方針と消費電力枠に向けて最適化した製品になるはずだ。
ここで8命令デコードを突っ込んでくるかはわからないが、突っ込んできても不思議ではない。Apple A14はTSMCのN5で製造と言われており、これが事実ならば、利用できるトランジスタ数が倍までは行かなくとも7~8割増える計算になる。
これだけ使えるトランジスタ数が増えれば、デコーダーをさらに複雑化しても搭載するのは難しくないだろう。
そして年末には、iPad Pro 2021(仮)やMacBook 2021(仮)あたりに、そのA14(仮)の派生型であるA14X(仮)が搭載されて出荷されるということになるだろう。ただこれはまだ第一弾でしかない。
iMacやMac Proが来年搭載する新SoCは
ARMのNeovers向けインターコネクトがベースになる?
2021年には、そのA14のbigコアを8コア程度集積した、デスクトップ/ローエンドサーバー向けのまったく異なるSoCが出てくるだろう。これはA14(仮)をベースにしたものか、それともさらにその次のA15(仮)をベースにしたものか、現時点では判断が難しい。
この新しいSoCは、(筆者も絶対的な自信を持って言うわけではないが、技術的可能性の観点のみから言えば)ARMのNeovers向けインターコネクトをベースにした製品になると予想している。
iMac 2021(仮)は1P、iMac Pro 2021(仮)で2P、Mac Pro 2021(仮)で4P、なんてことはNeoverse向けに提供されるインターコネクトIPを使えば構成は容易だ。基板上のプロセッサー間のインターコネクトは、最近さまざまなメーカーから提供されるようになっており、入手も難しくない。CCIXでもいいからだ。
自社が策定に参画していない標準規格を嫌うAppleのことなので、独自でなにか開発するか、そうしたIPを持っている会社を買収するかもしれない。もしくはAMD方式のMCM実装の可能性もある。
この2021年はx86→ARM以降の端境期にあたる。本命になるプロセッサー群は2022年のA16(仮)をベースとしたものになるだろう。この世代のiMac/Mac Pro向けはもっとコア数が増えるはずだし、ひょっとするとMacBook向けにもbig.LITTLEに対応しない、つまりiPad向けとは異なるプロセッサーが入るかもしれない。
現状では情報が少なすぎるので、いろいろなことを断言するのが難しいので大外れの可能性も低くはないと思うのだが、とりあえず今のAn/AnXシリーズとはまったく異なるSoCの製品ラインをAppleが立ち上げる必要があることだけは確かだ。このあたりは引き続きウオッチしていく必要があるだろう。
この連載の記事
-
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ - この連載の一覧へ