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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第571回

AppleがMacをARMベースの独自チップに移行、モバイル向けでいかにx86に立ち向かうか?

2020年07月13日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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A10はExynos M3相当
A11はExynos M5相当の性能

 問題はAppleが、それぞれのSoCの内部構造をまったく明らかにしてくれないことで、どんなものか想像するしかないのだが、1つの目安としてAndroidにおけるシングルコアの結果を使ってみたい。

GeekBenchによるAndroidのシングルコア性能一覧。このページの結果は随時更新されるので、これはあくまでも原稿執筆時点での数値である

 大勢を占めるSnapdragonはやっぱり独自コアなので中身がわからないのだが、その次の勢力であるSamsungのEyxnosに関しては内部構造がある程度わかっている。そこでこの画像のリストからExynosシリーズのみを抜き出し、整理したのが下表である。

GeekBenchによるiOSアプリケーションのシングルコア性能
SoC 1GHzあたりの
シングルコアの結果
コア構成
Exynos 990 387.7 Exynos M5(2.73GHz)×2+Cortex-A76(2.5GHz)×2+Cortex-A55(2GHz)×4
Exynos 9825 366.7 Exynos M4(2.73GHz)×2+Cortex-A75(2.4GHz)×2+Cortex-A55(1.95GHz)×4
Exynos 9820 377.8 Exynos M4(2.73GHz)×2+Cortex-A75(2.31GHz)×2+Cortex-A55(1.95GHz)×4
Exynos 9810 325.9 Exynos M3(2.9GHz)×4+Cortex-A55(1.9GHz)×4
Exynos 9610 195.9 Cortex-A73(2.3 GHz)×4+Cortex-A53(1.7 GHz)×4
Exynos 8895 213.0 Exynos M2(2.314GHz)×4+Cortex-A53(1.69GHz)×4
Exynos 8890 213.8 Exynos M1(2.6GHz)×4+Cortex-A53(1.6GHz)×4
Exynos 7904 162.2 Cortex-A73(1.8GHz)×2+Cortex-A53(1.6GHz)×6
Exynos 7885 185.5 Cortex-A73(2.2GHz)×2+Cortex-A53(1.6GHz)×6
Exynos 7884 167.2 Cortex-A73(1.6GHz)×2+Cortex-A53(1.35GHz)×6
Exynos 7420 158.8 Cortex-A57(2.1GHz)×4+Cortex-A53(1.5GHz)×4
Exynos 5433 170.3 Cortex-A15(1.9GHz)×4+Cortex-A7(1.3GHz)×4
Exynos 5410 90.6 Cortex-A15(1.8GHz)×4+Cortex-A7(1.3GHz)×4
Exynos 7880 75.3 Cortex-A53(1.9GHz)×8
Exynos 7870 71.6 Cortex-A53(1.6GHz)×8
Exynos 7580 68.2 Cortex-A53(1.6GHz)×8
Exynos 7578 68.7 Cortex-A53(1.5GHz)×4
Exynos 7570 72.1 Cortex-A53(1.4GHz)×4

 スコアで比較すれば、以下のようになっていることがわかる。

  • A7≒Cortex-A73
  • A8>Exynos M2
  • A9<Exynos M3
  • A10≒Exynos M3
  • A11≒Exynos M5
各CPUの特徴
Cortex-A73 3命令Decode/6命令Dispatchのスーパースカラー/アウト・オブ・オーダー
Exynos M2 4命令Decode/11命令Dispatchのスーパースカラー/アウト・オブ・オーダー
Exynos M3 6命令Decode/12命令Dispatchのスーパースカラー/アウト・オブ・オーダー
Exynos M5 5命令Decode/8命令Dispatchのスーパースカラー/アウト・オブ・オーダー
Cortex-X1

これはExynos M1のマイクロアーキテクチャーだが、Exynos M2はEyxnos M1のプロセス微細化+マイナーバージョンアップ版で、基本的にはExynos M1と同じ。4命令にしては重厚なバックエンドという気もするが、このあたりはまだなじみがある

Exynos M3の概要。ちょっとしたお化けという気もしなくもない

Cortex-X1はCortex-A78をベースにしたカスタマイズ版コアだ。画像はARMの資料より

 ここでExynos M5ではDecode/Dispatch数がむしろ減っているが、これは根本的なアーキテクチャーの変更による。

 Samsungはまずアーキテクチャーライセンスをもとに、独自のExynos M1と、これを微細化したExynos M2をリリース。次いでマイクロアーキテクチャーを大幅に強化したEyxnos M3と、これの微細化版であるExynos M4まではリリースしたものの、その次にあたるExynos M5は開発費が高騰しすぎるという理由でキャンセルした。

 その代わりARMと手を組み、Cortex-X Custom Programを締結。Cortex-A78をベースに、これを強化したカスタム版CPUであるCortex-X1を、Eyxnos M5という名前で投入している。

 本来のExynos M5は7~8命令 Decode/13~14命令Dispatchのスーパースカラー/アウト・オブ・オーダー構成と目されていたが、ARMの設計チームはこれを5命令Decode/8命令Dispatchの構成に押し込んで同等の性能を確保したわけで、これはこれで称賛に値する。もっともEyynos M4からの伸びはあまり大きくないのだが。

 ところがA12/A13は、これをさらに上回る(A13に至っては27%ほど上回っている!)性能を出しているわけで、この先もIPCをどうやって引き上げていくつもりなのかは良くわからない。

 業界的にはA10がおおむね6命令Decode、A11/A12が7命令Decodeと目されており、A13ではひょっとして8命令Decodeに達している可能性がある。ただこの先9や10命令Decodeのスーパースカラー/アウト・オブ・オーダー構成(Dispatchは14~16命令程度だろうか?)を実装するかどうかは謎が残るところだ。

 むしろこの先、AppleのSoCの方向はやや違った方向に移行すると筆者は考えている。開発キットのMac miniやMacBook系列であれば、従来のX/Zシリーズ、つまりコアの数を若干増やすとともに動作周波数をやや引き上げたプロセッサーのままで行けると思う。

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