100MHz/200MHzの差は体感できるのか?
ここまでのベンチマーク結果から、CINEBENCH R20ではなんとかT付きモデルの優位性が見えたものの、それ以外の検証では差があるとは言えない結果となった。たった100MHzや200MHzのクロック増で性能が大幅向上するわけもないのでこれで結論としても良さそうだが、この体感しづらいクロック増分の効果をどうにかして視覚化したいところだ。
そこで、今回はいつもの方法(3回ないし5回実行して中央値をとるやり方)で結果を比較するのではなく、結果を30回サンプリングして、その蓄積からRyzen 3000XTシリーズのクロック微増は効果があるのかないのかをはっきりさせてみたい。
まずは「Media Encoder 2020」を利用して、「Premiere Pro」で作成した3分半程度の4K動画をH.264 VBR 80Mbps(1パス)でMP4にエンコードする時間を計測する。まずは30回エンコードした時の平均値を見てみよう。
30回サンプリングした結果、Ryzen 5 3600XTは3600Xに対して、およそ12.6秒短縮。Ryzen 7 3800XTは3800Xに対しておよそ4.8秒、Ryzen 9 3900XTは3900Xに対して2.7秒短縮したことを確認できた。つまり、上位モデルになるほどT付きの効果は薄れることがわかった。すでにT付きとTなしでTDPは変わらないと解説しているが、同TDPならコア数が多いほどCPUのパワー制限が発動しやすく、結果としてRyzen 7と9ではRyzen 9のほうがクロックを上げても効果が得にくいと考えれば合点がいく。
そして、実際に30回の試行で各CPUがどんなタイムで終了したかをプロットしたのが下のグラフとなる。
Media Encoder 2020による動画エンコード処理はRyzen 3000XTシリーズで確実に効果が出るアプリだ、と断言していいだろう。ただし、効果がはっきりと実感できるかと言えば、上位モデルになるほど難しくなる。
AMDはRyzen 3000XTをゲーム用途に向いているとアナウンスしているが、実際のゲームでは動画エンコードのように効果が出るのだろうか? 今回はCPUの性能差が微妙すぎるため、手動計測による揺れを避け、ベンチマーク機能を備えたゲームでのみ検証することとした。
まずは「Rainbow Six Siege」のDirectX 11モードで検証する。これまで筆者は結果がブレにくいVulkanモードで計測してきたが、直近のシーズン変更でDirectX 11のほうが高フレームレートが出て、かつ安定するようになったため、今回はDirectX 11を使用する。
画質は「最高」をベースにレンダースケールを100%に設定し、解像度はフルHDのみで計測。GPUを十分暖めてから計測を始め、ベンチマークのランとランの間は30秒前後に収まるよう留意して計測を行なった(なお、後でわかったことだがラン間隔が少々違っても結果は極端にはブレない)。
まずは平均フレームレートの30回ぶんの平均値を見てみよう。
3DMarkのGraphicsスコアーはコア数の少ないモデルのほうが有利だったが、Rainbow Six Siegeでは逆にコア数が多く、ブーストクロックも高いRyzen 9のほうが良い結果が出た。Ryzen 7 3800XTと3800Xのように平均フレームレートが伸びているケースもあれば、Ryzen 5 3600XTと3600XのようにTなしのほうが高い値を示しているものもある。動画エンコードほどキレイな結果は出ないようだ。
では30回のサンプリングで各々どんな値を出したか、プロットした図をご覧いただこう。ここでは平均フレームレートに加え、カクつきの原因になりやすい最低フレームレートの傾向も追跡してみる。
プロットが重なりあって見づらいが、平均フレームレート(上側の折れ線)では、Ryzen 9 3900XT、Ryzen 9 3900X、Ryzen 7 3800XTの3CPUが一番上のゾーンを占め、そこから少し下の第2集団にはRyzen 7 3800X、Ryzen 5 3600XT、Ryzen 5 3600のプロットが集まっている。つまり、前述の横棒グラフと同じようにRyzen 9 3900XTと3900X、Ryzen 5 3600XTと3600Xの間には差がほとんど認められないが、Ryzen 7 3800XTと3800Xの間には差があると言えそうだ。
最低フレームレート(下側の折れ線)はCPUごとに違いが出るかと予想していたが、実際はどのCPUもほぼ団子状態で、大きな差はなかった。
もうひとつ、CPU負荷の極めて高いゲームの代表例として「Assassin's Creed Odyssey」でテストしてみた。画質は「最高」、解像度はフルHDのみで計測。これも30回の平均フレームレートを平均化したものと、試行ごとのプロットをご覧いただこう。
Ryzen 7と5においてはT付きモデルのほうが僅かに平均フレームレートが高くなっているようだが、その差は1fpsにも満たない。そういった意味では、少しでもフレームレートを絞り出したいエンスージアスト向けのCPUと言っても良さそうだ。
横棒グラフではかろうじて平均フレームレートに差があるように見えたが、実際にベンチマークのランを繰り返してみると、Rainbow Six Siegeのように平均フレームレートがゾーンで分かれるようなことはなかった。このゲームにおいては、T付きCPUの威力は実感できないとほぼ断言できる。
最低フレームレートも概ね同じ傾向だが、コア数の少ないRyzen 5 3600Xはフレームレートの落ち込みが激しく、クロックが100MHz高い3600XTのほうがより安定していることがわかった。ゆえに、このペアのみにおいてはRyzen 3000XTシリーズのほうが優秀と言っていいだろう。
この連載の記事
-
第458回
自作PC
Arc B580のRTX 4060/RX 7600超えは概ね本当、11本のゲームで検証してわかった予想以上の出来 -
第457回
自作PC
インテル新GPU、Arc B580の実力は?AI&動画エンコードは前世代より超強力に -
第456回
デジタル
「Ryzen 7 9800X3D」は高画質設定でも最強ゲーミングCPUであることに間違いはなかった -
第455回
デジタル
「Ryzen 7 9800X3D」が最強ゲーミングCPUであることを証明する -
第454回
デジタル
性能が最大50%引き上げられたSamsung製SSD「990 EVO Plus」は良コスパSSDの新星だ -
第453回
デジタル
性能も上がったが消費電力も増えた「Ryzen 7 9800X3D」最速レビュー、AI推論の処理速度は7800X3Dの約2倍! -
第452回
自作PC
Core Ultra 200Sシリーズのゲーム性能は?Core Ultra 5/7/9を10タイトルで徹底検証 -
第451回
自作PC
Core Ultra 9 285K/Core Ultra 7 265K/Core Ultra 5 245K速報レビュー!第14世代&Ryzen 9000との比較で実力を見る -
第450回
デジタル
AGESA 1.2.0.2でRyzen 9 9950Xのパフォーマンスは改善するか? -
第449回
デジタル
Ryzen 9000シリーズの性能にWindows 11の分岐予測改善コードはどう影響するか? -
第448回
デジタル
TDP 105W動作にするとRyzen 7 9700X/Ryzen 5 9600Xはどの程度化ける? レッドゾーン寸前を攻める絶妙な設定だが、ゲームでの効果は期待薄 - この連載の一覧へ