Indigoを買収して
デジタル印刷ビジネスに参入
HP Servicesは後でまた触れるとして、翌2002年HPはデジタル印刷ビジネスにも参入する。これは既存のプリンター事業部の製品ではなく、2001年に買収したイスラエルのIndigoという会社の製品である。
Indigoは1977年創業のデジタル印刷専業メーカーであり、創業からしばらくはほとんど売上もなかったが、1993年にE-1000という世界初のデジタルオフセット印刷機を発売する。資料を探したら、おそらくヘブライ語ベースと思われる同社の説明動画を発見した。なにを喋ってるのかはさっぱりわからないが、とりあえず機構はわかる。
これで勢いが付いたIndigoは、1994年には株式上場を果たす。もっともこの業界はXeroxやCANONといった、より資本力の大きな競合がひしめいている市場であり、それもあって上場後は赤字が続くというなかなか苦しい状況が続いていた。
ただIndigoの製品は、PrintingにもフォーカスするというHPの戦略にマッチしたものであり、まず2000年に1億ドルを投資して同社の発行株数の13.4%にあたる1480万株を買収。翌年株式交換の形で6億2900万ドル(+買収後に業績が一定以上に上がれば、追加で最大2億5300万ドルの現金を支払い)で同社を買収。E-1000はHP Indigo e-PRINT 1000 TurboStreamという名前でHPから発売されるようになる。
そして資金的に安定したことで、開発資金をきちんと投入できるようになったIndigo部門(Indigoがそのまま部門になった)は第2世代製品であるHP Indigo press 5000を投入。
画像の出典は、日本HPのIndigo press 5000のカタログ
これまでの個人用プリンターや業務用プリンターに加え、新たにデジタルオフセット印刷の市場に足掛かりを作った。国内でも当時記者説明会が開催されている。
COMPAQを買収しPCサーバー事業を展開
製品ラインの統合に成功
さて、コンピューター関連はというと、COMPAQの買収により同社の製品ラインナップが丸ごと手に入ることになった。
特にProLiantシリーズのPCサーバーはこれまでHPが手掛けてこなかった部分であり、かつ価格/利益率ともにコンシューマー向けに比べて高く設定可能で、ビジネス的にも美味しい部分である。
もちろん参入障壁はあって、この当時のインテルはサーバー向けにPrestonia/Gallatin(NorthwoodベースのCPUコアに2P/4P対応と、Gallatinでは3次キャッシュも追加)ベースのXeon/Xeon MPを提供している程度だったが、CPUはもとよりチップセットもRAS機能はせいぜいがECC/Parity保護程度、という乏しいものであり、そもそもまだこの頃インテルのチップセットは技術的にサーバー向けとしてはかなり厳しいレベルであった。だからこそRCCやCorollaryといったメーカーが生き残る余地があったわけだ。
COMPAQはもともと自社でチップセットを作れるほどの技術力があり、また1993年からProLiantシリーズの出荷を開始して、実際に現場で使われることで培われてきた信頼性や性能に関するノウハウの蓄積があった。
もちろんHPもHP 3000シリーズやHP 9000シリーズでのノウハウの蓄積はあるし、そもそも自社でCPUを設計できるほどの能力を持つ会社だから、技術的に困難と言うわけではないにしても、PCサーバーを独力で開発していたら、COMPAQと同レベルの製品まで仕上がるまでには数年を要していただろう。
ところが実際には買収翌年の2003年からProLiantサーバーの出荷を開始しており、2005年6月にはCOMPAQ時代からの累積で1000万台のProLiantサーバを出荷している。これは素直にCOMPAQを買収したメリットとして良いと思う。
その一方で、コンシューマー向けはなかなか厳しいものがあった。COMPAQの買収にあたり、ほぼPCビジネスはCOMPAQ側に製品を寄せた感があり、なので1985年から発売されていたVectraシリーズはこのタイミングでフェードアウト、COMPAQ EVOで置き換えられている。
ただコンシューマー向けに関しては、Pavilion(こちらは1995年から投入されていた)のブランドは残り、COMPAQのPresarioブランドやCOMPAQ Evoブランドと合わせて併売されていった(このあたりが最終的に整理されるのは2013年である)。

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