HPが買収する以前にCOMPAQ社内で
AlphaからItaniumへの移行が決定
OSのOpenVMSは、その移植に関して“Porting OpenVMS to HP Integrity Servers”という資料がHPE(Hewlett Packard Enterprise)から出ている。
ちなみにこれは「開発エンジニアが語る HPE IntegrityサーバーへのOpenVMSのポーティング」というタイトルで翻訳版も存在する。
もともとはOpenVMS Technical Journal V6に掲載されていたもので、対象読者はOpenVMSのユーザーであり、それもあってOpenVMS用語が説明なしにふんだんに出てくるので、なじみのない読者には「なんの話をしてるのかわからない」という箇所も多いとは思うが、それでも雰囲気はつかめるだろう。
さて、この記事の中で重要なのは、まだHPによるCOMPAQ買収が決まる以前の2001年6月に、COMPAQ社内でAlphaからItaniumへの移行が決まっていたことだろう。
その理由は、Alphaの開発スケジュールが予定通り進んでも、2005年にはインテルのプロセッサーが同等の性能になり、その先はインテルがAlphaを凌駕する性能を出すと予測されるため、という話であった。
やや後になるが、2003年春のIDFにおけるItaniumのロードマップは下の画像のとおり。2001年の段階では、まだ90nm世代の話は公にはなってなかったが、おそらくパートナーには90nm世代までの話が伝えられており、これを元にCOMPAQのエンジニアは性能的に勝てない、と判断したものと思われる。
ちなみにこのロードマップ、2003年春のものなので、MadisonとDeerfieldに関しては正しい。また2004年に投入予定のMadison 9MBも、1.5GHz駆動のものが2004年11月にリリースされているし、Deerfield follow-onと記されていたFanwoodも、同じく2004年11月にリリースされているので、ここまではオンスケジュールである。
ところが90nmのMontecitoは、登場したのは2006年7月と公約の1年遅れ、その次のTukwila(65nmプロセス)に至っては、2010年2月の投入になった。Montecitoの遅れは、主にインテルの90nmプロセスの問題がもろにヒットした形になる。
動作周波数は130nmのMadisonが最終的に1.67GHz駆動を達成したのに対し、Montecitoは1.6GHz止まりで、かなり近い1.66GHz動作を達成したのはMontecito派生型のMontvale世代(2007年10月発表)となっている。
Montecitoでは最大24MBもの大量の3次キャッシュを搭載しているが、これがボトルネックになって動作周波数を上げられない(上げると消費電力が急増する)あたりが、Pentium 4よりもさらに問題を難しくしていたようだ。
もしもこうした未来がわかっていたら、COMPAQは引き続きAlphaの製造を続けていたかというと、おそらくはやっぱり止めていただろう。
これは設計上の問題もさることながら、プロセスの問題が大きい。旧DECの工場は1997年にインテルに売却しており、その後は他社の工場を利用して製造していた。
連載291回で少し触れたが、EV6まではDECがマサチューセッツ州ハドソンに保有していた自社工場での製造、EV67がSamsungの0.25μm、EV68CとEV7がIBMの0.18μm Cu配線、EV79が同じくIBMの0.13μm PD-SOIプロセスとなる予定だった(実際にはキャンセル)。
この頃のインテルのプロセスロードマップは連載239回で説明しているが、2001年に0.13μm、2003年に90nmであって、IBMはおおむねインテルから1~2年遅れであった。Alphaを中止したのは正しい判断だったと思う。

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