開発者が語る「ホンダe」はただのEVではなくCASEだ

文●鈴木ケンイチ 編集●ASCII編集部

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フランクフルトモーターショーでホンダが発表した
EV「ホンダe」の開発者に聞く

 2019年9月に開催されたフランクフルトモーターショー(IAA2019)にて、ホンダは電気自動車である「ホンダe」の量産モデルを発表した。特徴は4座だが、小さいということで荷室はミニマムだ。搭載する電池は35.5kWhで航続距離は220km。0-100km/h加速は8秒。後輪駆動で、スポーツタイヤを装着する。コネクテッド機能が重視されており、室内には大きな2画面モニターが用意されている。価格は約3万ユーロ。日本円換算で約360万円だ。

 一方で、フォルクスワーゲンも同じく量産EV「ID.3」を発表した。こちらは、もう少し大きなCセグメント。基本モデルは58kWhの電池を搭載し、航続距離は420km。価格は3万ユーロ以下。つまり「ホンダe」に比べより大きく、より遠くまで走れる。そして価格は同じだ。

エンジンをモーターに代えた
ただのEVを作ったわけではない

 「ホンダe」は、これで大丈夫なのか? 正直、そんな不安がよぎる。

 「私どもはエンジンをモーターに代えた、ただのEVを作ったのではありません。CASE(コネクテッド/オートノマス/サービス/エレクトリックの頭文字を取ったもので、次世代の自動車のコンセプト)を実現した次世代のスモールカーを作ったのです」と「ホンダe」の開発責任者である人見康平氏は説明する。

「ホンダe」開発責任者 人見康平氏

 その根底には「クルマも進化しなければならない」という思いがあるという。電話が携帯電話になり、そこにカメラが備わったことで、まったく別のスマートフォンに進化したように、クルマも電動化するだけでなく、CASEを体現することで、別の乗り物に進化するという考えがあるのだ。

 では、なぜ「スモールカー」なのだろうか?

 「なぜ電動化しなくてはいけないかを考えてほしい」と人見氏は逆に問いかける。電池をたくさん積んで、大量に電力を消費するのでは意味がないというのだ。電気も電池もタダではない。大量に作るにはエネルギーが必要だ。環境負荷ゼロの再生可能エネルギーは、まだ一部だけ。大部分は化石燃料を使ってエネルギーは作られている。それではガソリン・エンジンで大量消費しているのと変わらないのだ。電動化は、環境負荷を減らすためということを思い出さなければならない。

 「電気は大切に使わなければいけません。さらに電池を大きくすれば、航続距離は伸びるけれど失うものもあります」と人見氏。クルマと電池が大きくなれば、重くなって走行効率はダウンする。電池への充電時間も長くなる。また、狭い街中での取りまわしも悪くなる。良いことばかりではないのだ。

コンセプト決定のきっかけには
宗一郎氏の言葉があった

 「このクルマをどのようにしようかと考えていた時期に、あちこちに行って考えました。他の自動車会社にも行きました。静岡の天竜市にある私設の“本田宗一郎ものづくり術伝承館”にも行ったんですね。そこで、目にしたのが一般の人が選んだ宗一郎の言葉でした。“当社は一切、模倣しない”と。それを見て、“あっ、これだ!”と。ホンダらしさとはこれだと思ったんです」と人見氏。

 そこで人見氏は、開発するクルマはスモールカーとして航続距離を220㎞に割りきり、後輪駆動を選択。これまでとまったく違うものを目指すことにしたという。

 「ホンダも僕も小さなクルマを作るのが得意。小さなところに詰め込むのであれば、どこにも負けません」と人見氏。ホンダ伝統のモノづくりの考えにM・M(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)思想がある。M・M思想とは“人(マン)のためのスペースは最大に、それに対して機械(メカニズム)は最小に”という考えだ。そのM・M思想をもって、ホンダは過去にシビックなどのヒット車を数多く生み出してきた。また、人見氏も、これまで手掛けてきたクルマは「フィット」や、軽自動車「N-WGN」などの小さなクルマばかり。小さなクルマは得意分野であったのだ。

突破口の一つが「This is HONDA EV」というデザイン

 しかし、理念は素晴らしいが、価格にあう魅力がなければ、誰もクルマは購入しない。その突破口のひとつになるのがデザインだ。

 人見氏がデザイナーに発注したのは「This is HONDA EVというデザイン」であった。これにはデザインチームの反発があったという。「もっと具体的な指示がほしい」というのだ。しかし、「ホンダのフィロソフィーにある自主自立にのっとって、自分で考えろ」と突き返し、その結果、生まれたのがキュートな「ホンダe」のデザインであったという。

 「デザインが突破口となったけれど、内容も自分が欲しいものにならないと意味がない。このクルマを買う人は、フィットを買う人とは違います。都市部で使ったときに、大型セダンの高級車を見ても、自分のクルマの方が自慢できるものにしたかった」という。そこで武器となるのが大画面のモニターやソファのようなインテリアだ。大画面のモニターはコネクテッド機能など、従来にないクルマの新しい使い方を予感させる。また、実物を見ると、意外や内装の質感が高い。さらにスポーツタイヤを装着しており、瞬間的な加速力もあって、キビキビと気持ちよく走れるようにしているという。

 「ホンダeというコネクティブとかCASEみたいなものを予感させるハード。そこには個人ユースに対して十分に魅力的なコネクティビティー機能を提供できたと思っています。そして、このホンダeをお客さまが受け入れてくれるのであれば、これをどんどん拡張してゆくアプローチもあると考えています。それは、このクルマの開発に関わった私のような若い世代がつなげていかないといけないなあと。ですから、僕の感覚としては、ここからが始まりだと感じています」と、人見氏の下で「ホンダe」のコネクティビティ系の企画開発に携わった安藝未来氏は言う。「ホンダe」の魅力は、この先に発展するコネクテッド関連のサービスも含めて100点になる。つまり、「ホンダe」の真価は、まだ半分というわけだ。

左・人見氏/右・安藝氏

 「ホンダe」とは “誰の模倣もしない”ところから始まり、“得意の小型車”で“誰もがホンダとわかるデザイン”で“新しい価値”を提供するクルマとなった。ある意味、非常にホンダらしいクルマだと言える。小さくても人に自慢できる。これが「ホンダe」の最大の魅力ではなかろうか。

筆者紹介:鈴木ケンイチ


 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。



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