医療ベンチャーのイーグロースと京都大学医学部附属病院は、放射線治療の計画を立案するにあたって必要な臓器の輪郭入力や金属アーチファクト除去をAIで自動化しようと試行錯誤を続けている。放射線治療に携わる多くの人たちの働き方改革につながるプロジェクトの概要と、さくらインターネットの高火力コンピューティング導入の経緯を聞いた。
放射線治療のレベルを高める産学プロジェクトのはじまり
大谷:今西さん、まずはイーグロースの会社紹介からお願いします。
今西:二次元・三次元の医用画像を扱う医療ベンチャーです。国内で放射線治療のソフトウェアエンジンを開発できる会社はほとんどないと認識していますが、その点では弊社はトップレベルを自負しています。
私が放射線治療分野に携わり始めた頃、放射線治療のソフトウェアはすでに100%海外製でした。実際、グローバルでシェアの高いソフトは僕の目から見ても素晴らしいのですが、やはり価格も高いんです。国内での技術の発展のためにも、自力で開発しなければいけないと思いました。
大谷:国産ソフトウェアは、やはりメリットも大きいのでしょうか?
今西:基盤となるプラットフォームをわれわれが作ってしまえば、その上のアプリケーションは自分たちで知見として開発できるはずです。実際、2014年くらいから京大病院と連携し、放射線治療のデータを扱うようになりました。そこで現場の先生の一人として担当してくれたのが中村先生です。
大谷:中村先生は京都大学病院でどういったことを担当しているのでしょうか?
中村:放射線治療です。放射線治療は、医学物理学と放射線生物学の両輪で成り立っているのですが、私はそのうち医学物理学を担当しています。これまでの仕事としては、たとえば、今まで皆無であった国産の放射線治療装置を大手メーカーといっしょに開発してきました。
大谷:そこでイーグロースが手がけるような国産ソフトウェアが必要になったんですね。
中村:はい。確かに大手メーカーはいいハードウェアを作ります。しかし、いいソフトウェアを開発できる会社が日本には少ないと思っていました。そんな中、イーグロースの今西さんと出会い、製品に組み込まれる手前の実証実験モジュールを作ってもらったのが協業のきっかけです。
最近は医用画像にAIを組み合わせて、研究開発を使っています。でも、医用画像を使うにあたっては、やはり医師が役立つものを開発しなければいけないので、情報学的な側面で中尾先生のアドバイスを受けて、プロダクト開発を進めています。
大谷:次は中尾さんの自己紹介をお願いします。
中尾:私自身は情報学出身ですが、医学と情報学の境界領域である医用システムの研究を行なってきました。今西さんとは大学院生の時から関わっており、情報技術によって医学を牽引することを目指したテーマに取り組んでいます。具体的には情報技術を用いて外科手術や放射線治療を支援したり、体内の臓器や医学知識を数量的に扱い、シミュレーションや可視化を行なえるようにする基礎アルゴリズムを作っています。
大谷:放射線治療という点では、どのような研究開発になるのでしょうか?
中尾:放射線治療での問題の1つに、臓器や病変のバリエーションが非常に豊富であるという点があります。たとえば、自動運転の場合、認識対象である道路や車はある程度規格や構造が整っていますが、われわれの生体は個人差が大きいのです。特に放射線治療の場合は、数日から数十日に渡って治療を繰り返していく中で、体形や臓器の形状が変化する可能性があります。
このようなバリエーションが豊富で、しかも日々形が変化する臓器はAIでは扱いが難しい対象でした。臓器の形や変化を統計的に扱うためのモデルやアルゴリズムを同時に考える必要があります。ですから、中村先生と共同で放射線治療時の臓器データを収集し、統計的なモデルを作って、AIとつなげる研究を行っています。人体臓器の変化に対応した次世代の治療計画を考えたいと思っています。
中村:放射線治療って、長い人だと8週間くらいかかります。治療が終わるのは、CTを撮影してから相当な時間が経っているので、体の中の状態は相当変わってるはず。そんな課題を持っていたら、生体医工学を専門とされている中尾先生に出会うことができ、共同研究につながりました。医学物理学と生体医工学の融合ができていて、新たな展開を迎えているのも事実です。
大谷:両者の具体的な研究成果はいかがでしょうか?
中尾:大学はコア技術を開発できるのですが、実用的なソフトウェアにまで組み上げるリソースがありません。ですから、イーグロースさんと共同で臨床現場で使えるものを作っています。逆にAIによる画像解析はイーグロースさんの方が先行しているので、ライブラリを提供してもらい、研究開発を行なっています。
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